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2021年10月31日号
社会 冤罪被害者を「犯人扱い」した滋賀県警本部長がなぜか栄転
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 滋賀県警の滝澤依子本部長が10月18日付で警察庁長官官房審議官に異動する。栄転とみなせる人事だ。

 しかし、滝澤氏は批判の矢面に立たされている。原因は県警が大津地裁に出した民事訴訟の準備書面にある。県と国を相手に損害賠償請求訴訟を起こしたのは、同県彦根市の元看護助手、西山美香さん(41)。西山さんは勤務先の病院で男性患者を殺害したとされて服役した後、昨年3月に再審無罪となった。それにもかかわらず、県警は無罪判決を否定する内容の準備書面を作成した。

 確定した無罪判決を民事裁判の過程で否定された西山さんは記者会見で怒りを露(あら)わにし、県議会も滝澤氏を追及。

 滝澤氏は離任直前の10月15日、「私が(準備書面を)決裁し、随時報告を受けていたが、(県警側の)主張を正確に表現できていなかった。申し訳なく思う」と記者会見で釈明した。「今後は関係者の心情に留意し、丁寧に対応することを内部で徹底する」とも話した。

 県警は準備書面中の〈被害者を心肺停止状態に陥らせたのは、原告である〉という文言に続いて〈と判断する相当な理由があった〉と付加。さらに〈(西山さんが)取調べ担当官に好意と信頼を寄せて虚偽の殺害行為を自白することなど、根本的にあり得ない〉など4カ所を削除した。

 筆者はその記者会見に参加を申し込み、県警の記者クラブの了承を得たが、県警は記者クラブ会員ではないことを理由に拒否した。質問状を送ったところ、監察官室の担当者は「無罪判決を重く受け止めている」「(準備書面には)不十分な点もあった」と回答。筆者が「県警は刑事裁判で敗北し、民事訴訟の場で西山さんが殺害したという印象を世間に与えようとした意図はなかったのか」と尋ねると、「そのような意図を与えるべく書いたものではない」。

 滝澤氏は筆者の質問状に目を通したという。

(粟野仁雄)

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