80歳で起こした不動産会社を「24時間営業・年中無休」を掲げて成長させ、「年商5億円のおばあちゃん社長」として知られた和田京子さんが6月18日に亡くなった。享年90歳。遺族によると、数年前から体調不良が続き、今年2月には社長職を長女の洋子さんに譲っていた。老衰に近い最期だったという。
和田さんは1930年、愛知県岡崎市に生まれ。10代半ばで家族と上京し、武蔵野大を卒業した。22歳で肺結核を患ったが、闘病中に結婚した夫正武さんに支えらえ、手術の末に病を克服した。その後、専業主婦として2人の子どもを育てた。
高校の教員だった正武さんが2007年に亡くなった後、孫の昌俊さんの勧めで、かねて興味があった住宅について勉強を始めた。専門学校に通い、79歳で宅地建物取引士の国家資格試験に合格し、東京都江戸川区に「和田京子不動産」を起こした。
不動産業界では売り手と買い手の双方から仲介手数料を取るのが一般的だが、同社は原則として買い手からは取らない。業界の常識を打ち破る独自の経営を貫いたのは、和田さん自身が業者側の利益を優先した取引などに、何度も悩まされた経験があったからだった。
当初このユニークな経営は同業者から「出るくい」と見られ、嫌がらせを受けた。しかし、買い手目線に徹した経営に加え、和田さんのきめ細やかな説明と対応が口コミで広がり、会社は成長。テレビや新聞などでも注目され、16年には『85歳、おばあちゃんでも年商5億円』(WAVE出版)を出版した。
洋子さんは生前の母について「社交的で明るい性格の持ち主で、どんな苦境に直面しても、泣き言一つ言わずに常に先を見据えている人でした。最期まで周囲に『ありがとう』と言葉をかけ、他者への感謝の気持ちを忘れない姿が印象的でした」と振り返る。
「高齢者起業の星」は穏やかに旅立ったようだ。
(一ノ瀬伸)