「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」初代代表の横田滋さん(享年87)が亡くなった。
「主人は全身全霊で(救出活動に)打ち込みました。棺(ひつぎ)にはめぐみ(55)の写真を入れました」
6月9日夕刻、東京都内の記者会見で妻の早紀江さん(84)はそう気丈に話した。その前日に川崎市の教会で葬儀を済ませたばかりだった。
神戸市長田区の自宅でテレビ中継を見守った有本明弘さん(91)は、「早紀江さん、ちょっと涙を流しとるんちゃうかな」としんみり。有本さんの三女恵子さん(60)は英国留学を終えた1983年、日本人女性に「いい仕事がある」と騙(だま)されて北朝鮮に入国したまま帰国できないでいる。
「今度、早紀江さんに会(お)うたら『もう孫と遊んでゆっくりして暮らしたらええんや』と言いたい。北海道から沖縄まで1400回も講演や署名活動した2人は、ほんまにようやってくれました。横田夫婦がいなかったら家族会もできんかったんとちゃうか」
応接間にはいくつかの写真が飾ってあった。恵子さん、今年2月に亡くなった妻の嘉代子さん(享年94)、それに昨年5月に来日した米国のトランプ大統領と面談する有本さん。「あなたは勝利するでしょう」とある大統領直筆のメッセージもあった。話が恵子さんに及ぶと、有本さんはこう話した。
「(北朝鮮の工作員に)船に押し込められためぐみちゃんと違って、うちの恵子は『(英国から)帰ってこい』と説得しても聞かず、騙された。会えたら『何しとったんや。このアホ』とどやしつけてやりますよ」
有本さんは日米の首脳が連携することで、拉致問題が解決すると信じている。
「拉致問題は安倍(晋三首相)さんとトランプさんがきちっとやってくれるんや」
横田滋さんと有本嘉代子さんはそれぞれ日本人男性、同女性の平均年齢を超える長寿にもかかわらず愛娘を待ち続けたが、ついに再会は果たせなかった。歳月の流れは残酷だ。
(粟野仁雄)