サンデー毎日

経済
News Navi
2025年2月16日号
SBI新生銀行公的資金返済 北尾吉孝が狙う「野村証券超え」
loading...

 SBIグループの総帥・北尾吉孝氏が掲げたSBI新生銀行の公的資金返済が、ついに現実味を帯びてきた。今年3月末までに1000億円を返済し、残る2300億円もSBIホールディングス(HD)の資産売却や出資先の上場益を活用し、2025年度中に完済する計画だ。

 この返済スキームの最大のポイントは、国が保有する普通株を再び優先株に戻し、高配当を約束する仕組みにある。SBI新生銀行の前身・旧日本長期信用銀行は1998年と2000年に計3700億円の公的資金を受け入れたが、0708年に優先株が普通株に転換された。今回の手法は普通株をふたたび優先株に戻す、いわば時計の針を戻すようなスキームで、15年に公的資金を完済したあおぞら銀行のスキームを応用したものだ。

 あおぞら銀行は、当初12年に普通株へ転換予定だった優先株の期限を10年間延長。分割払いを認め、特別優先配当を支払うことで段階的に返済を進めた。SBI新生銀行もこの手法を活用し、株主平等原則に縛られることなく、発行者と国との合意で柔軟に返済条件を設定することが可能になった。

 SBIHD23年にSBI新生銀行をTOB(株式公開買い付け)で非上場化し、株主を国とSBIHDのみに限定。これにより相対交渉が可能となり、返済スキームをより効率的に進められる環境を整えた。北尾氏は「あおぞら銀行のように時間をかけない。可及的速やかに返す」と語り、完済後は再上場を計画している。

 この公的資金返済に道筋がついたことで、北尾氏の次の目標は「野村証券超え」へと移った。249月中間連結決算の説明会で、証券最大手の野村証券を超えるのは「時間の問題だ」と話した北尾氏は、24年上半期(49月)の証券各社の業績を比較する資料を提示。SBIは営業利益5位だったが、239月から実施した「ゼロ革命」による逸失収益188億円がなかったと仮定すると、営業利益は565億円となり、野村の1175億円に次ぐ2位に相当すると主張した。

 ゼロ革命とは、SBI証券が国内株式売買手数料を無料化した施策で、開始1年で信用取引口座数は約45%増加。249月末の預かり資産は前年同期比約36%増の427000億円に急拡大し、証券口座数ではすでに業界首位に立つ。

「ゼロ革命」の影響で一時的な利益減少はあったものの、長期的にはユーザー基盤を拡大し、取引量の増加によって収益を補う戦略だ。これにより、SBI証券はネット証券としての地位を確立し、国内大手証券会社に対抗する存在へと成長している。

 SBI新生銀行の公的資金返済の行方は、ポスト北尾を巡る人事にも影響を及ぼす。すでに有力候補は2人に絞られている。「本命はSBI新生銀行社長の川島克哉氏。対抗馬はSBI証券社長の髙村正人氏」(大手証券幹部)とみられている。SBI新生銀行の公的資金返済が成功すれば、SBIグループの企業価値は一段と向上し、野村証券を超える現実味が増す。そのタイミングでポスト北尾も動き出しそうだ。

(森岡英樹)

.....................................................................................................................

 ◇もりおか・ひでき

 1957年生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大卒業後、経済紙記者、米コンサルタント会社を経て、2004年に独立

うさぎとマツコの人生相談
週刊エコノミストOnline
Newsがわかる
政治・社会
くらし・健康
国際
スポーツ・芸能
対談
コラム