元サッカー日本代表の本田圭佑氏が立ち上げたファンド「X&KSK」が、153億円の資金を集めた。SBIホールディングス(HD)と傘下のSBI新生銀行から計20億円を調達したほか、このファンドには、静岡銀行、野村ホールディングス、GMOインターネットグループ、東急不動産、アシックスといった日本を代表する企業が出資している。さらに、ZOZO創業者で資産家の前澤友作氏率いる「前澤ファンド」も参加し、その顔ぶれは「サッカーのオールスター軍団」(市場関係者)と評されるほどだ。
このファンドの目標は、企業価値が100億㌦(約1兆5000億円)以上の未上場企業「デカコーン」を生み出すことだ。主に日本人が起業したスタートアップを対象とし、創業間もないシード期から「シリーズA」に至る段階の企業に、1社あたり3億~5億円を投じ、株式の10~15%を取得する計画だ。
「X&KSK」を支える重要な人物が、SBIグループの総帥である北尾吉孝氏だ。北尾氏の人脈を活(い)かし、SBIインベストメントの山田昌平氏をファンドの投資委員会メンバーとして送り込み、運営体制を整えた。山田氏は、前職の国際協力銀行で武田薬品工業の大型買収案件などを手掛けた実績がある。
また、楽天の米国本社で新規事業やスタートアップ投資を担当していた山本航平氏、米国のソーシャルゲーム企業「ジンガ」創業者のジャスティン・ウォルドロン氏、ソフトバンク・ビジョン・ファンド出身の佐々木陽介氏も参画し、万全の布陣で臨んでいる。
本田氏の投資家としてのキャリアは2016年に設立した「KSK Angel Fund」から始まった。このファンドを通じて、マーケティング支援のエニーマインドグループやマクアケなど、200以上のスタートアップに投資。その中から新規株式公開(IPO)を果たす企業も生まれた。さらに、18年には米俳優ウィル・スミス氏と共同で「Dreamers Fund」を設立し、イーロン・マスク氏が創業したニューラリンクなどに投資。これまでに9社がユニコーン、2社がデカコーンに成長する成果を上げた。
また、本田氏は22年にスタートアップ投資を行う「X&」を設立し、日本初のデカコーン創出に向けた動きを加速させている。政府も同年、27年度までにスタートアップへの投資額を10兆円に増やし、ユニコーンを100社生み出す目標を掲げており、本田氏もこのロードマップに共感してファンド設立を決めた。
「X&KSK」は、資金提供だけでなく、創業者のマインド変革も目指す。投資先の経営者と直接コミュニケーションをとり、本田氏が持つグローバルな人脈を活用して支援する「伴走型」のスタイルを取る。こうした支援は、まるで日本サッカーがJリーグ創設を経て、世界的なプレーヤーを輩出した成長過程を彷彿(ほうふつ)とさせる。本田氏は投資活動を通じて、「世界で戦える企業」を日本から生み出そうとしている。
このファンドによる日本発のデカコーン創出への挑戦は、国内外で注目を集めている。日本経済の新たな成長を牽引(けんいん)する存在となるか、今後の動きが期待される。
(森岡英樹)