「イオンはツルハに続きドラッグストア大手のアオキ取り込みに動くのではないか」(市場関係者)との見方が浮上している。ドラッグストア業界の再編は、さらに熾烈(しれつ)を極めるのか。
2024年2月、イオンはグループ傘下に持つウエルシアホールディングス(HD)と、ツルハHDとの経営統合のための協議を開始したと発表した。業界最大手のウエルシアと2位のツルハ統合により、売上高は2兆円を超える。
「ウエルシアのほうが売上高では上回るが、経営統合でイオンは、ウエルシアの名前は残しつつ、ツルハを親会社にすることで、創業家の顔を立てる配慮も欠かさなかった」(メガバンク幹部)
鍵を握っていたのは、香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントだ。
「オアシスを創業したセス・フィッシャー最高投資責任者は、同族経営会社を標的に、次々と株を買い占めて創業家排除の株主提案を仕掛けてきた。なかでもターゲットとなったのがドラッグストア業界だった」(市場関係者)とされる。
23年6月にはツルハの「創業家による企業支配」を問題視し、鶴羽順社長の父・鶴羽樹氏が就く取締役会長職の廃止や、社外取締役候補5人の選任などを要求。さらに24年7月に、同じく同族経営会社であるクスリのアオキHDの株式を大量保有し、社長の青木宏憲氏と、その弟である副社長の孝憲氏の退任を求めた。
オアシス側の提案は株主総会で否決されたが、このときツルハの窮地を救ったのが、筆頭株主のイオンだった。24年に入り、イオンはオアシスが保有していたツルハ株を取得し、持分法適用会社化して、ウエルシアとの統合を決めた。
さらにイオンは、「統合5年以内に3兆円の売上高」を目標に掲げており、「規模拡大を求めてアオキ買収を視野に入れているのではないか」(市場関係者)との見方が有力だ。クスリのアオキHDは、「健康と美と衛生」を理念に掲げ、全国25府県でドラッグストア951店舗、専門調剤薬局6店舗、スーパーマーケット18店舗を展開する。しかし、そこには資本の壁が控えている。
「アオキは、ツルハと同じように23年以降、オアシスに株付けされ、経営に圧力を受けていた。その過程で、イオンがオアシスの保有株を買い取る形で、傘下に収める動きがみられた。しかし、アオキの創業家一族の抵抗は激しく、頓挫した格好になっている」(大手証券幹部)
24年5月時点で、イオンはアオキの9・98%を保有する筆頭株主で、傘下のツルハもアオキ株の5・13%を保有していた。またオアシスは4・27%を保有しており、3者の保有株を合算すると、19・38%に達する。
しかし、ツルハのようにイオンの軍門に降るのを嫌ったアオキの創業家は、株の買い増しに動いた。アオキの創業家一族と岩盤の持ち合い株を含めると、「株主総会で重要事項に拒否権を発動できる3分の1以上の株式を確保した」(同)とされる。
クスリのアオキHDは12月5日、複数の地方スーパーと事業譲渡契約を締結し、独自路線をひた走る。徹底抗戦のアオキ創業家一族に、イオンはいかなる手を繰り出すのか。
(森岡英樹)
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◇もりおか・ひでき
1957年生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大卒業後、経済紙記者、米コンサルタント会社を経て、2004年に独立