11月19日、ソニーグループが出版大手KADOKAWAの買収に向けて協議中だと報じられた。エンターテインメント事業を成長の柱に据えるソニーが、多くのコンテンツを持つKADOKAWAを傘下に収めることで、収益拡大を図る狙いとみられる。
交渉は初期段階とみられるが、報道を受け、KADOKAWAの株価はストップ高となり、前日終値比23%高の3745円で取引を終えた。KADOKAWAは翌20日、ソニーによる買収報道について、「当社株式の取得に係る初期的意向表明を受領している」とコメントを発表した。
ソニーは、ゲームや映画、音楽などエンタメ関連企業への投資やM&A(企業の合併・買収)を強化し、関連する知的財産(IP)の獲得を急いでいる。2021年には米AT&T子会社でアニメ配信「クランチロール」の運営会社を約1300億円で買収。さらに、25~27年3月期の3年間でM&Aや自社株買いなど計1兆8000億円の成長枠を設定している。
一方のKADOKAWAはグループでゲームやアニメといった多様なIPを持つ。書籍は12万点以上、映像は2000本以上、年間約5500点の新規IPを生み出している。年間19本のペースで実写作品を製作し、アニメ作品数は年間59本に上る。
「KADOKAWAは海外事業の拡大を経営目標に掲げているが、独力では限界がある。ソニーと一緒になったほうが早く成長できるという判断もあるだろう」と取引銀行幹部は指摘する。
ソニーは21年、KADOKAWAの第三者割当増資に応じる形で資本提携し、現在、KADOKAWAの株式の約2%を保有している。22年にはKADOKAWA子会社で人気ゲーム「エルデンリング」を開発したフロム・ソフトウェアに子会社を通じて出資するなど、両社は関係が深い。ソニーは世界展開するプレイステーションを有し、そこにKADOKAWAの持つコンテンツやIPを展開できる。
証券業界では、今回の買収提案の背景には、中国資本の影響を懸念する声もある。KADOKAWAは21年に中国テンセントと資本提携し、テンセントは6%超を出資する第3位の株主になっている。大手証券会社幹部はこう語る。
「KADOKAWAの11月19日時点の株式時価総額は約5300億円。50兆円を超える時価総額のテンセントにとって買収はわけのない話」
実際、今年6月には電子コミック配信サービスの「めちゃコミック」が米投資ファンド、ブラックストーンに買収されることが明らかになった。豊富なコンテンツを持つKADOKAWAは魅力的な買収対象だ。同幹部が続ける。
「大手出版社の講談社、小学館、集英社は非上場であり、上場企業のKADOKAWAが狙われやすい」
ソニーがKADOKAWAを買収することで、日本の知的財産を守るという側面もありそうだ。
(森岡英樹)