日本各地や海外でリゾートホテル・温泉旅館やスキー場を運営する星野リゾートが、新卒採用において、新たな取り組みを打ち出した。10月から、大学の学年に関係なく選考し、内定を出すと発表した。学生は内々定後、半年以内に内定を受諾するかどうか決められるという。
さらに、入社は卒業後12カ月以内にすればよい。入社時期も4月、6月、10月と2月の年4回から選択でき、入社後のコースも異なるスキルや経験が身につけられる四つから選べる。学生の希望に沿った仕事ができるようになっている。
現在、観光業界は慢性的な人手不足が続く。観光庁が2024年5月に公表した主要旅行業者43社・グループの旅行取扱状況によると、23年度の海外旅行・外国人旅行・国内旅行の総取扱額は22年度比約125%と前年より回復している。一方で、19年度比では約80%と、コロナ禍前の市場規模には戻っていない。
星野リゾートの新規採用の取り組みは、厳しい状況が続く観光産業の中で、早期に優秀な人材を獲得する狙いがあるようだ。現役の社会人からは、このような声が上がった。
「何万社とある会社のうちの一つなので、画期的な取り組みをする会社があってもよいとは思う」(20代男性 大手教育業)
「学生の勉強が少しおろそかになるかもしれない」(30代女性 IT企業)
「業界全体が活性化する取り組みだが、さらなる就活の早期化が予想されるので、就活生にとってはより大変な時代になっていく可能性がある」(20代男性 大手サービス業)
学生たちはどう思っているのだろうか。星野リゾートの新たな採用の取り組みについて聞くと、やや否定的な声が多かった。
「入学してすぐ就活に向けて動かないといけないので、もう少しゆっくり大学生活を楽しみたい」(1年生男子 教育学部)
「1年生から内定が決まった場合、研修がどうなるか気になる。入社までしばらく時間があるので、入社後ではなく学生時代に行うはずだが、学業や学生生活と両立できるのか。また、内容はどのようなものなのかが心配だ」(3年生男子 経済学部)
「大学生は4年かけて様々な経験をし、自分の価値観をつくる時期だと思う。先に将来が決まってしまうと、面接時と入社時の自分にギャップを感じてしまいそう」(3年生女子 芸術学部)
ただ一方で、早期の就職活動を意識している学生からは、好意的な声も聞かれた。
「親からの就活に対するプレッシャーを感じているので、こうした企業が増えるとありがたい」(2年生女子 経営学部)
「大学1・2年生で就活を意識する層は、よほどリテラシーの高い大学生か、家庭の事情で勤め先を探しているかどちらか。前者には刺さらないかもしれないが、後者はウィンウィンの関係を築けると思う」(3年生男子 商学部)
賛否両論あるが、情報社会を生きる企業の生き残り戦略としては、話題になった今の時点で成功と言えるのかもしれない。
(濱井正吾)
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◇はまい・しょうご
1990年生まれ。教育ジャーナリスト。ニックネームは「9浪はまい」。9浪目で早稲田大教育学部に入学した。著書に『浪人回避大全』