みずほフィナンシャルグループ(FG)は、楽天カードへの出資に向け、楽天グループと協議入りすることで合意した。出資比率や出資額などの詳細を詰め、年内にも資本・業務提携を結ぶ。これに伴い、楽天グループは4月に公表したグループの金融事業再編は見合わせる意向だ。
法人分野で幅広い顧客基盤を有するみずほFGとの提携を通じて、楽天は法人分野での成長を加速させる。みずほ側も、カード発行枚数が3000万枚を超え、個人向けに強みを持つ楽天カードとの提携で事業を強化するのが狙いだ。
みずほFGはすでに楽天証券に49%を出資しており、今年4月には共同出資で個人投資家の相談にのる「MiRaIウェルス・パートナーズ」を発足させている。楽天証券に続いて楽天カードへの資本参加により、両社の距離は一段と縮まる。
だが、今回のみずほFGによる楽天カード出資の狙いを額面通りに受け取る市場関係者は少ない。「楽天グループは携帯事業(楽天モバイル)への投資で巨額な負債を抱え、その償還資金の捻出に苦慮している。今回の出資は、楽天グループが抱える財務問題へのメインバンクみずほの処方箋の意味合いがある」と大手証券幹部は語る。
出資検討に合わせ、楽天グループが金融事業再編を見合わせたのはその証しにほかならない。金融事業の再編は資金の捻出を意図した部分があったことは確かだ。それだけではない。みずほが描く「デジタル経済圏の取り込み」という大きな戦略もある。
銀行はIT事業者の銀行業参入により劣勢に立たされている。楽天やソフトバンクなどの、EC事業者による銀行参入はその最たるもので、大手銀行の警戒感は強い。その一端は、ソフトバンクによる「給与デジタル払い」に表れている。
ソフトバンクグループは9月から給与の一部をデジタルマネーで受け取れる「デジタル払い」をスタートした。国内初の取り組みで、希望した従業員は、スマホ決済アプリ「PayPay(ペイペイ)」で給与の一部を受け取った。ソフトバンクのサービス開始に合わせ、多くの企業が導入を検討しているという。
給与デジタル支払いに、銀行界は危機感を強めてきた。「社会に定着している給与振り込みの牙城をノンバンク(資金移動業者)に崩されかねない」(地銀幹部)ためだ。銀行は給与振り込みで顧客の資金の流れを把握し、いろいろな商品の提案をするのが競争力の源泉だが、資金移動業者に給与のデジタル払いが握られれば、情報の優位性は失われる。
こうした危機意識から銀行界は「給与デジタル払い」の議論が始まると、「デジタルマネーの事業者が経営破綻した場合に給与等の支払いが滞る」「マネーロンダリングに悪用される懸念も残る」など問題点を挙げ、防戦を図ってきた。
だが、銀行は防戦に終始しているわけではない。あるメガバンクのトップは、「給与デジタル払いは近い将来、社会インフラとして定着する。そうしたデジタル社会を先取りする戦略を練らなければならない」と指摘する。みずほFGと楽天グループの接近は、両社による巨大なデジタル経済圏への布石と見ていい。
(森岡英樹)