日本のメガバンクが支援する、国際貿易決済の効率化プロジェクト。けん引するのは、金融界が注目するスタートアップ企業を創業した2人だ。「Progmat」(プログマ)を創業した齊藤達哉氏と、「Datachain」(データチェーン)創業者の久田哲史氏。両社は9月5日、共同プロジェクト「Project Pax」を開始したと発表した。これは、デジタル通貨「ステーブルコイン」を使った「クロスボーダー送金」(国際送金)の基盤構築を目的としている。
クロスボーダー送金は、2022年時点で182兆ドル(約2京8000兆円)に達する巨大市場だ。その一方で、主要20カ国・地域(G20)でも「送金コスト」「着金スピード」「アクセス」「透明性」の4項目において抜本的な改善が求められている。課題解決に注目が集まる中、両社はステーブルコインを活用することで、高速かつ安価で24時間365日稼働可能なクロスボーダー送金の実現を目指している。このプロジェクトには、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループの3メガバンクが実証実験に加わり、25年の商用化を目指している。
「Project Pax」では、国際的な資金決済の主流である国際銀行間通信協会(SWIFT)のインフラを活用して、高速かつ安価なステーブルコインの送金プラットフォームを開発する。
「複数の中継銀行を経由した現在の国際送金では数十分程度かかったり、マネーロンダリング(資金洗浄)対策情報の不備などがあると1カ月程度かかったりすることがある。今回のプロジェクトはブロックチェーン上のステーブルコインを用いて銀行間で直接送金するため、着金までの時間は理論上、数秒~数分以内になる」(メガバンク幹部)
プログマを創業した齊藤氏は、元銀行員だ。東北大経済学部卒業後、10年4月に三菱UFJ信託銀行に入社。三菱UFJ関係者によると、「入社時は普通の銀行員で、法人営業や業務企画などを経験したが、16年に新規事業の部署(フィンテック推進室)に配属されたのを機に、脱皮した」という。以降、「連続社内起業家」として数多くの事業を立ち上げ、23年10月に独立した。メガバンク幹部によると、「プログマは、特定の銀行色を薄めるため、49%の株式を保有する三菱UFJ信託銀行のほか、みずほ信託銀行や三井住友信託銀行などメガバンクグループの系列を超えた出資を受けている」という。
齊藤氏をよく知る三菱UFJ関係者は、「齊藤氏は『三菱UFJのカラーである赤色を無色にしたい』と語っている。三菱UFJの看板に頼ることなく、さまざまな企業が使えるようにと、謙虚に頭を下げて営業を行っている」と評価する。
一方、データチェーン創業者の久田氏は、スタートアップ界では連続起業家として知られる。名古屋大工学部在学中の07年にデジタル・マーケティング支援を行う「Speee」(スピー)を創業し、18年にはブロックチェーンの社会実装を手掛けるデータチェーンを設立した。スピーは20年にJASDAQに上場。久田氏の資産は100億円を超えるとみられる。
2人が拓(ひら)く国際的な資金決済の新たな潮流に、注目が集まる。
(森岡英樹)