11月の米大統領選は、民主党ハリス副大統領の出馬で、これまでの共和党トランプ氏の優勢が揺らぎつつある。そうした中、トランプ氏が目論(もくろ)んでいるのが「金本位制」の復活だ。
トランプ氏の「金本位制」復活に呼応するかのように、中国の中央銀行である中国人民銀行は金の購入を増大させている。「金」と「通貨」を巡る米中の神経戦から目が離せない。
「紙幣より金の方が信じられる。建国の父が憲法に組み込んだ考えです」
保守系テレビのFOXは、こうした金購入を勧めるCMを頻繁に流している。また、保守系シンクタンクのヘリテージ財団は、次期大統領のアジェンダ(政策)として、「金本位制への回帰の実現可能性を検討すべきだ」と提言する。
金本位制は、通貨価値の裏付けとして「金」を位置付け、金と通貨の交換を国が保証する仕組みだ。1971年、米国が金とドルの交換を停止し、変動相場制に移行した「ニクソン・ショック」まで続いた。その時計の針を半世紀前まで戻そうというのが、トランプ氏ら共和党保守強硬派の主張だ。
トランプ氏は、バイデン政権下で進められた過剰なマネーの供給が高インフレを招いたと攻撃する。金本位制に戻せばマネーの供給は金保有量により制限され、FRB(米連邦準備制度理事会)の裁量で自由にマネーの供給を増やすことができなくなるという。ただ、「民主党批判の道具として、トランプ氏があえて筋の悪い金本位制復帰を持ち出した」(メガバンク幹部)との側面もある。
トランプ氏はFRBへの介入もチラつかせている。8月8日の記者会見で、FRBの政策決定に対して「大統領が発言権を持つべきだ」と主張。FRBを事実上、大統領の監督下に置こうとしているのだ。
「1935年の銀行法改正で、財務長官によるFRB理事の兼務が廃止され、FRBの政権からの独立性が担保された」(メガバンク幹部)。それまでのFRBは、政権(財務長官)の意のままに金融政策が運営されていた。
「トランプ氏は大統領時代、利下げに応じないパウエルFRB議長を『脳なし』と繰り返し罵倒した」(同)という。2016年の大統領選では、イエレンFRB議長(当時、現財務長官)に対して、「お前はクビだ」と言い放ち、解任をちらつかせた。いずれもFRBの独立性を無視した言動だ。
こうした米大統領選におけるトランプ発言を尻目に、虎視眈々(たんたん)と「金」の保有を増大させているのが先の中国人民銀行。「中国人民銀行は23年に723万㌉の金を買い越し、公的な機関として世界最大の買い手となった」(市場関係者)とされる。いまや中国人民銀行は世界最大の金購入者で、中国の外貨準備に占める金の保有額は増大している。
「中国人民銀行による金の大量購入は、米大統領選後の米中対立の可能性を視野に入れた、習近平政権による防衛策であることは間違いないだろう」(メガバンク幹部)
11月の米大統領選の行方はどうなるのか。結果いかんによっては、急騰する金価格の行方も左右しそうだ。
(森岡英樹)