英高級ファッションブランド「バーバリー」の業績悪化が、アパレル業界に大きな波紋を広げている。2024年4~6月期の既存店の売上高は、海外からの観光客に支えられた日本は前年同期比6%増だったが、それ以外の主要地域では販売が落ち込み、7月には株式配当停止を発表した。
英バーバリーが苦境に陥る中、V字回復を果たしたのが三陽商会だ。三陽商会は1942年、各種工業用品・繊維製品の製造販売を目的に、吉原信之氏が東京都板橋区で個人創業したのが始まり。取引銀行幹部は「三陽商会が大きく飛躍したのは、英バーバリーとライセンス契約を結んでの独占販売にあった」と解説する。
しかし、2015年6月にバーバリーとの契約が切れ、三陽商会は迷走。21年2月期までの5期連続で赤字に陥った。後継ブランドとして投入した「マッキントッシュ ロンドン」「ブルーレーベル・クレストブリッジ」「ブラックレーベル・クレストブリッジ」の販売が思うように伸びなかった。
「三陽商会は、英バーバリー社とのライセンス契約打ち切りに懲りて、日本企業である海外衣料輸入大手の八木通商が経営権を持っているマッキントッシュとライセンス契約を結んだが、『バーバリー=三陽商会』のイメージを払拭(ふっしょく)するのに時間がかかった」(前出・取引銀行幹部)という。
また、三陽商会内部の危機感も薄かった。バーバリーとのライセンス契約解消直後の16年、三陽商会は意外にも本社隣接地に別館ビルの建設を進めていたのだ。「経営不振企業は本社を売却し、賃貸に切り替える話は聞くが、新社屋を建設するというのは理解できない。大企業病に陥っている」と取引銀行幹部が呆(あき)れる一幕もあった。
転機は20年5月。元三井物産理事でゴールドウイン副社長を務めた大江伸治氏が社長に就任し、抜本的な改革に着手した。まず取り組んだのは、在庫の適正化だった。
「アパレル事業においては、在庫管理が最も重要だと考えている。とにかく在庫消化を最優先して対処した」(大江氏)。在庫整理のため、粗利率には目をつぶり、積極的にセールを仕掛けた。セールで消化できない商品は一部買い取り業者への処分販売もしたという。
また、事業構造改革として販管費の圧縮、希望退職を募集、不動産の売却と、聖域なきリストラを断行。
「銀座をはじめとする不動産、保有株など資産の売却を進めた。キャッシュを積みあげた」(同)
三陽商会は22年2月期に黒字に転換。23年3月期連結業績は、営業利益、営業活動によるキャッシュ・フローもプラスとなり、「継続企業の前提に関する重要事象等」の記載も解消した。25年2月期の見通しについて、連結業績は売上高625億円(前年比1・9%増)、営業利益33億円(前年比8・3%増)、経常利益34億円(前年比6・8%増)を予想する。
「英バーバリーに縁切りされた三陽商会は、10年近く、まさに塗炭の苦しみを味わったが、いまや英バーバリーを見返し、立場は逆転した格好だ」(メガバンク幹部)。バーバリーとの別れが転機となり、V字回復した三陽商会の今後に注目が集まる。
(森岡英樹)