「ハローキティ」のキャラクターで知られる「サンリオ」の株価が好調な業績を背景に高騰している。「時価総額は7月23日終値で8164億円と、1兆円の大台乗せが見えてきた」(大手証券幹部)。牽引(けんいん)するのは創業者の辻信太郎名誉会長の孫にあたる辻朋邦社長だ。31歳の若さで後を継いだが、船出はけっして順風満帆ではなかった。
社長に昇格したのは2020年7月。祖父から孫への継承に、SNS上では「いちごの王様」から「ポムポムプリン」へのバトンタッチと話題になった。山梨県庁職員から身を起こし、一代で世界的なエンターテインメント会社「サンリオ」を築いた信太郎氏は、ファンから「いちごの王様」と呼ばれていた。
「サンリオの起源は県の外郭団体・山梨シルクセンター。いちごのキャラクター商品の開発が飛躍のきっかけになった」と関係者。信太郎氏のいちごへの思い入れは強く、『いちご新聞』も発行している。
一方の朋邦氏は、人気キャラクター「ポムポムプリン」のようにぽっちゃりした愛嬌(あいきょう)ある風貌。慶應大卒で、大手食品メーカーを経て14年1月にサンリオ入りした。前年の13年11月に父で当時副社長だった邦彦氏が出張先の米ロサンゼルスで急死。「個人としても法人としても、ぼうぜんとしてどうしていいのかわからなくなった」と悲嘆にくれた信太郎氏から涙ながらに頼まれ、入社した。
サンリオの業績は邦彦氏の急死を境に低迷。サンリオの将来を託された朋邦氏は、「キャラクターのブランド力を向上させるとともに、デジタルへの取り組み強化を進める」と、アニメ・デジタル事業部を設け、アニメやゲーム発のIP(知的財産)創出を目指した。
念頭にあったのはディズニーだが、コロナ禍に阻まれた。21年3月期の売上高は前期比25%減の410億円、営業損益は32・8億円の赤字、当期純利益も39・6億円の赤字に転落した。最終赤字は12年ぶりのどん底だった。
だが、ここから朋邦氏の踏ん張りが花開く。バンダイナムコホールディングスの米子会社トップも務めた齋藤陽史氏や、オリエンタルランドやボストン・コンサルティング出身の中塚亘氏など、外部の優秀な人材を招聘(しょうへい)。経営陣を刷新し、若返りを図った。過剰在庫のもととなっていたアイテム数を削減し、不採算店舗を整理。さらに、ハローキティに依存する経営から「複数のキャラクター戦略」へとブランディングを転換した。「海外での売上高の約9割はキティに依存していたが、それが足元では5割程度まで低下している」(大手信用情報機関幹部)
こうした取り組みが功を奏し、業績は21年3月期を底に回復し、24年3月期は過去最高の269億円の営業利益をたたき出した。さらに、サンリオが5月に公表した中期経営計画では、M&Aや資本提携を念頭に置いた投資枠として500億円が設定されている。
「M&Aを駆使したゲーム市場への本格的な進出や、インドなど未開拓な海外市場への進出などが予想される」(市場関係者)という。次の一手が注目される。
(森岡英樹)
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◇もりおか・ひでき
1957年生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大卒業後、経済紙記者、米コンサルタント会社を経て、2004年に独立