「ゴッドファーザー」や「インディ・ジョーンズ」など、数々の名作を生み出してきたアメリカのメディア大手パラマウント・グローバル。日本のソニーが買収に乗り出していると、『ウォール・ストリート・ジャーナル』などアメリカの複数メディアが報じた。
ソニーグループ傘下のソニー・ピクチャーズエンタテインメントが、米投資ファンドのアポロ・グローバル・マネジメントと共同でパラマウントに対し、260億㌦(約4兆円)での買収提案を行っている―。
この買収報道について5月23日、ソニーグループの経営方針説明会で十時(ととき)裕樹社長は、「一般論として、優良な知的財産などのアセットには常に興味があり、投資とリターンがわれわれの尺度にあうことを前提にいろいろな機会は積極的に検討していく」と述べ、明言は避けた。
しかし、十時社長は、今年度から3年間の経営計画で1兆8000億円としている戦略投資の予算枠を超えても投資する可能性について聞かれ、「あまり考えていない。3年間で適切な規模でいい機会を見いだしてやっていきたい」と含みを持たせた。
その可否を占う上で、「ソニーのトラウマ」といわれる過去の買収案件が影を落としていると市場関係者は指摘する。バブル最盛期の1989年9月、ソニーは48億㌦(当時6700億円)で米国のコロンビア・ピクチャーズを買収した。「ソニーの後を追うように松下電器、日本ビクター、パイオニア、東芝、商社などがハリウッドに大金を投じた」(大手証券幹部)とされる。
三菱地所がマンハッタンのロックフェラー・センターを買収したのもこの頃で、「日本企業がアメリカの魂を買い漁(あさ)っている」と非難され、ジャパンバッシングが沸き起こった。
ソニーのコロンビア買収も米国では「アメリカ国民を敵に回してほかの製品が売れなくなったらどうする」と否定的な見方が強かった。当時、買収会見に臨んだソニー創業者の盛田昭夫会長は、「外国人が買った例は過去にもあるのに、日本の企業の時だけ、こうした批判が出るのは非常に残念だ」と不満を示した。
そうした市場の懸念は2016年に顕在化した。ソニーは、16年度第3四半期決算で、映画分野の営業権について減損1121億円を営業損失として計上した。映画製作事業の収益見通しを下方修正したことが理由だった。減損の対象となった営業権の過半は、1989年にコロンビアの株式を公開買い付けした際に計上したものだ。
ただし、減損処理を経て、ソニー・ピクチャーズはグループの儲(もう)け頭に成長しており、ソニーは、映画分野は将来の利益成長を見込める重要な事業と位置付けている。
果たして巨費を投じ、パラマウントをいま買収する価値はあるのだろうか。「1㌦=155円を超す円安局面で、4兆円も投じるのは高い買い物になる」と大手証券幹部は指摘する。
ソニーはまだパラマウントと買収に伴う秘密保持契約が締結されていないと見られ、本格的なデューデリジェンス(資産査定)はこれからだ。また、パラマウントは3大ネットワークのひとつであるCBSを所有している点もネックと見られている。パラマウント買収を虎視眈々(たんたん)と狙う競合社もあり、買収そのものがうまくいくかどうか予断を許さない。(森岡英樹)
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◇もりおか・ひでき
1957年生まれ。経済ジャーナリスト。早稲田大卒業後、経済紙記者、米コンサルタント会社を経て、2004年に独立