経団連会長の出身母体が苦悩を抱えている。総合化学大手の住友化学は2024年3月期連結決算で、最終損益が過去最大となる3118億円の赤字に沈んだ。子会社が手がける医薬品事業と、市況の悪化による石油化学事業の不振が要因という。
住友化学は、十倉雅和経団連会長(73)の出身母体で、いまも十倉氏が会長を務める。「創業以来の危機的な状況」と岩田圭一社長(66)は立て直しに躍起だが、抜本的な改革は打ち出せていない。
石油化学(石化)事業は世界的なエチレン市況の悪化で、各社とも業績低迷に直面した。その中でも住友化学は、「サウジアラビアの石化事業と製薬子会社が足かせとなり、浮上のきっかけをつかめないままでいる」(メガバンク幹部)という。
23年9月期決算発表時、十倉会長と岩田社長は11月からの役員報酬の一部返上を決めたが、「賃上げ推進の旗を振るべき経団連会長の会社がこのような業績不振では、産業界の賃上げ機運に水を差しかねない」(財界関係者)と懸念する声も上がっていた。
温厚な人柄で知られる十倉氏だが、さすがに母体企業の大幅赤字に業を煮やしたようだ。岩田社長に対して、「何をやっているんだ」と不満をぶつける場面もあったとされる。
住友化学の経営を蝕(むしば)んでいる頭痛の種は二つある。サウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと共同運営する石油化学プラント「ペトロ・ラービグ」の業績不振と、2期連続で大幅赤字を続ける医薬品大手の「住友ファーマ」だ。
「ラービグ」には約2兆円を投じているが、投資を実質的に主導したのは、故米倉弘昌氏だ。米倉氏は、十倉氏の前の前の社長で、同じく経団連会長を務めた財界の重鎮。米倉氏は08年秋に社運をかけたサウジアラビアでの石油化学の合弁プロジェクト「ラービグ計画」の稼働を見届ける形で会長に退き、その後、10年に経団連会長に就いた。
5月15日の決算会見で佐々木啓吾常務は、ラービグを含む石油化学事業について、「中国の需給にかなり左右されている部分もある。なにがしかの再編が必要だと思う」と述べ、業界再編の可能性を示唆した。
一方、住友ファーマはどうか。大手信用情報機関幹部は「ヒット薬だった抗精神病薬ラツーダが米国で特許切れし、資金繰りさえ懸念される状態にある」。このため、住友化学は保有株の売却を検討していると指摘される。
住友化学は国内外で4000人規模のグループ社員の配置転換を行うほか、資産や事業の売却などを進める方針で、一連のリストラにより今年度の最終的な損益は200億円の黒字になると予想している。
「事業売却と人材の配置転換で、希望退職は募らないと言っているようだが、体裁を繕った感は否めない」(金融関係者)。経団連の十倉会長の任期は来年5月末まで。それまでに経営不振から脱却し、「財界天皇」として有終の美を飾れるか。
(森岡英樹)