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2024年4月28日号
経済 首相訪米中に153円台 「岸田る」で進む円安水準
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 岸田文雄首相の訪米を見透かすように、投機筋による円安アタックに見舞われた。4月11日早朝、円・ドル相場は一時1㌦=153円台まで下落、1990年6月以来、約34年ぶりの円安水準をつけた。日本時間10日夜に公表された3月の米消費者物価指数が市場予想を上回り、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期利下げ観測が大きく後退したためだ。市場関係者は「日米金利差が大きい状態が続くとの見方が強まり、円売り・ドル買いが進んだ」と話す。

 急激な円安進行を受け、鈴木俊一財務相は11日午前、「行き過ぎた動きには、あらゆるオプション(選択肢)を排除することなく、適切に対応していきたい」と語り、神田真人財務官も「背景に投機的な動きがあることは明らかだ」と、為替介入も辞さない姿勢を示した。

 しかし、市場では「岸田文雄首相が首脳会談のため訪米中で、為替操作国と受け止められる介入は実施しづらい」との見方が有力で、足元を見透かされた格好だ。

 円・ドル相場の構成要素は複雑だ。新NISAによる海外金融商品への投資などの影響もあるが、最大の決定要因は日米の金利差とされる。「マネーは金利の低い国の通貨から高い国の通貨へ流れる。その意味で中央銀行の金融政策の方向性がキーファクターとなる」(メガバンク幹部)

 この点、日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除したが、今後の政策運営について植田和男総裁は「当面緩和的な金融環境が継続する」と強調している。日銀の低金利政策は継続される一方、FRBの利下げが遠のくとみた投機筋は安心して「円売り」を仕掛けてきたわけだ。

 今回の円安は日米の金利差という構造的な問題にとどまらず、国力を巡る本質的な問題があるとの指摘も聞かれる。シンガポールの投資家の間ではいま、「岸田る」というフレーズが流行(はや)っているという。

「岸田首相は対日投資を世界にアピールしているがポーズばかりで、国民の信頼も失っている。『岸田る』とは、格好ばかりで『何もしない』という皮肉だ」(シンガポールの投資家)

 岸田首相は、日銀がマイナス金利の解除を決めた3月19日の金融政策決定会合後、植田総裁と会談した。岸田首相は会談後、「異次元の金融緩和から新たな段階へ踏み出すと同時に、緩和的な金融環境が維持されることは適切だと考えている」と日銀の判断を尊重する意向を示した。

 この会談について市場関係者は「日銀は11月の米大統領選までに追加の利上げに踏み切りたいと考えているのだろうが、政府から慎重に対処するよう釘(くぎ)を刺されたのではないか。日銀が保有する国債は589兆円超、安易な利上げは財政を直撃しかねない」と指摘する。

 事実、日銀による国債購入は維持され、金融緩和は継続されている。円安に対応するには日銀が利上げすることが王道だが、財政と景気への配慮から早期の利上げに踏み込めない以上、足元の急速な円安進行には為替介入で対応するしかない。しかし、「為替介入も介入原資となる外貨準備残高に限りがあり、米国債を売却して現金化すれば、米国債利回りの上昇要因となり、米金融当局の理解が必要になるジレンマを抱える」(市場関係者)という。

「円安進行」は市場による日銀の追加利上げ催促か、それとも「日本売り」への警告か。

(森岡英樹)

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