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2024年4月14日号
経済 マクドナルドを「V字回復」のカサノバ会長が突然の退任劇
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 日本マクドナルドの経営を立て直したサラ・カサノバ会長(58)が3月26日に退任した。当初、同日開催の定時株主総会の議案では、カサノバ氏を会長に再任する案が盛り込まれていたが、同月19日までにカサノバ氏から急な申し出があり、株主総会1週間前に候補者から撤回する異例の展開となった。当面、後任の会長は置かず、これまでのツートップ体制から日色保社長が中心となる経営体制に移行する。カサノバ氏は「母国のカナダで家族と暮らす」と説明したという。

 カサノバ氏はカナダ・バンクーバーで育ち、マックマスター大大学院を修了、1991年にマクドナルドのカナダ法人に入社した。水泳に没頭した幼少期からマクドナルドのハンバーガーが好きだったが、採用面接では一度落とされている。自ら手紙を書いて直訴し、入社を許されたという。2004〜09年に人材交流で日本での勤務経験があり、その際にはマーケティング本部長として「えびフィレオ」「メガマック」などのマーケティングを担当した。マクドナルド・マレーシアなどを経て、13年に日本マクドナルド社長に就任し、14年に日本マクドナルドホールディングス(HD)の社長に昇格した。

 カサノバ氏の社長就任は期限切れの鶏肉の使用問題が発覚したどん底の時代。売上高は最大で4割減にまで落ち込み、筆頭株主の米マクドナルドが株式を一部売却するとの観測まで流れたほどだった。収益も14年12月期から2期連続で連結最終赤字に転落。「数値主義」の原田泳幸前社長の強引経営のツケが露呈したような惨状だった。

 カサノバ氏もスタートでつまずく。期限切れ鶏肉使用問題が発覚した直後の記者会見で「マクドナルドはダマされた」と述べたのだ。「自分たち(経営者)も被害者だ」と言わんばかりの発言に「責任を回避し、日本を去って次のステップに進むんじゃないか」と社内外でささやかれた。

 だが、カサノバ氏の本意は違っていた。原材料や原産国、製造方法の情報をホームページ上で開示したり、顧客から意見を吸い上げるアプリを導入したりして信頼回復に努めた。顧客とクルー(現場社員)に寄り添い続けたと言えよう。

 一方、既存店の大型改装やサイドメニューの選択肢拡充、夜間帯メニューの強化などで顧客層を拡大した。17年12月期には最終黒字240億円と当時として過去最高益を更新し、V字回復を果たす。その後、19年に日本マクドナルド社長を退いて同社会長に就任。21年には日本マクドナルドHDでも会長となり、日色社長体制を支えた。

 マクドナルドはコロナ禍後の変革期を経て、再成長曲線を描いている。宅配需要を取り込むための積極的なIT投資に加え、コスト高を転嫁する値上げで23年12月期の連結純利益は6期ぶりに過去最高を更新した。マクドナルドの既存店売上高は今年1月まで43カ月連続で、前年同月実績を上回っている。
「店に来るのは好き。お客さまを見ています。どう過ごしているか、満足しているのか」と常々語っていたカサノバ氏。客に寄り添い、何よりマック(マクド)を愛したカサノバ氏がマクドナルドを去る。

〝ありがとうカサノバ〟

(森岡英樹)

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