「2024年は経営不振企業への伴走型支援を一層強化していく」
有力地方銀行幹部は新年の抱負を聞かれ、こう力んでみせた。コロナ禍から3年あまりが経過し、日本経済はどうにか回復基調に転じている。しかし、先行きが見えなかったコロナ禍の後遺症は今も残り続けている。コロナ禍が始まった20年から開始された「ゼロゼロ融資」のツケは、正にその象徴と言っていい。
「ゼロゼロ融資」とは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって売り上げが減少した個人事業主や中小企業に対し、実質無利子・無担保で行う融資。20年から開始され、22年9月末までに約245万件、約43兆円が実行された。「同融資は、個人事業主は最大6000万円、中小企業は最大3億円が実質無利子で借りられる。返済が滞った場合でも元本の8割あるいは全額を信用保証協会が肩代わりする仕組みになっている」(メガバンク幹部)とされる。仮に焦げ付いても一義的には金融機関の懐は痛まないわけだ。
しかし、「地域経済の屋台骨を支えるのは中小企業。倒産は地域経済の疲弊となってブーメランのように自身に返ってくる」(冒頭の地銀幹部)という難題だ。その再生は地銀にとっては「一丁目一番地の課題」(同)となっている。
金融庁の問題意識も同じだ。このため24年春に金融機関向けの監督指針を改正し、これまでの「企業の資金繰り支援」から「企業再生」に軸足を移す検討を開始している。具体的には、資金繰り支援にとどまらない経営改善支援や、事業再生支援について「先延ばしすることなく実施する必要がある」と監督指針に盛り込む方向だ。
同時に、全国銀行協会に対して、中小企業の「私的整理ガイドライン」の改正を求める。「中小企業の再生のために必要な債権放棄について、金融機関が中小企業の経営悪化の予兆を把握した段階で踏み込めるようにする方向」(金融庁関係者)という。金融機関の債権放棄には無税償却など税制面の措置が不可欠で、既に「中小企業経営者の私的整理指針にそって金融機関が債権放棄した場合、回収できる資産が残っている場合でも、無税償却が認められているが、その領域が予兆段階にまで広げられる可能性がある」(メガバンク幹部)とされる。
「ゼロゼロ融資」の返済は既に始まっている。この間、中小企業を中心に倒産は増加している。東京商工リサーチによると、20年7月から23年10月までのゼロゼロ融資後の累計倒産件数は1130件に上り、23年1〜10月は545件と前年同期比50%増えた。「コロナ禍に加え、大幅な円安に伴う原材料費の値上げ等のコストアップ、人手不足などが経営を圧迫している」(メガバンク幹部)という。
「ゼロゼロ融資」の返済は24年4月にピークを迎える。一方、融資金融機関の多くは、信用保証協会の保証を前提に、融資先企業の債務者区分を「正常先債権」に区分している。その突然死は避けなければならない。2024年が〝企業再生元年〟となることを祈るばかりだ。
(森岡英樹)