「本来であれば同意できない人事案です」
ある野党議員が不満を吐露するのは、政府が1月21日、国会に提示した人事案。日本銀行の次期審議委員に専修大経済学部教授の野口旭(あさひ)氏(62)を充てるという内容だ。審議委員の6人は、黒田東彦(はるひこ)総裁と副総裁2人と共に政策委員会委員を構成する重要ポスト。国会の同意を得て内閣が任命する。
前出の野党議員が問題視するのはなぜか。
「コロナ禍の中、財政・金融面の支援が不可欠な状況にあるため、あえて反対するつもりはありません。しかし、野口氏はデフレ脱却のためインフレターゲット論(物価目標)を主張するなど、バリバリのリフレ派であり、同意しかねる人なのです」
リフレとはリフレーションの略称で、「通貨再膨張」と訳される。政府や中央銀行が不況を脱するため、通貨供給量を膨張させる考えだ。
日銀による国債や上場投資信託(ETF)の買い入れはリフレ政策の典型だ。現在、ETFの買い入れ額の上限は年12兆円に達している。黒田氏は昨年12月、この政策は「市場機能に影響します。こうした『コスト』ないし『副作用』はできるだけ抑える必要があります」と、問題視した。
日銀の政策委員会委員9人のうち、若田部昌澄副総裁、片岡剛士審議委員、安達誠司審議委員の3人は明確なリフレ派。中立派とみなされる櫻井眞審議委員の後任に野口氏が任命されれば、リフレ派は4人となる。黒田氏と雨宮正佳副総裁は金融緩和が好ましいとする立場だ。市場関係者が言う。
「野口氏の任命が実現すれば、9人のうち6人がリフレ政策を支持する土壌が整います。これで感染終息後も、日銀が金融緩和を維持する可能性が高くなりました。日銀の出口戦略は遠のくでしょう」
日銀の政策次第で株価が暴落しかねない不安は続きそうだ。
(森岡英樹)