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2025年2月 2日号
3000年前の王の庭を再建 「東エルサレム」で進む民族浄化
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 パレスチナ自治区ガザ地区で続いてきた大量虐殺。死者は少なくとも4万6000人を超えたとされるが、イスラエルによる統制で現地を取材できるメディアは限られているうえ、ガザでは160人以上の現地ジャーナリストが殺されており、未曽有の人道危機の実態は不透明だ。

 国際法を無視した殺戮(さつりく)や占領が続いているのは、ガザだけではない。ガザとは飛び地となっている、東エルサレムを含むパレスチナ・ヨルダン川西岸地区では、世界の目がガザへと向いている中、恐ろしい民族浄化が進められている。

 エルサレム――。ユダヤ教、キリスト教、そしてイスラム教の聖地があることで知られるこの地は、同時に幾度もの殺戮の歴史を刻んできた。ユダヤ人国家としてのイスラエルの建国・発展を目的とするシオニズム運動で、多くのパレスチナ人が故郷を追われた。第一次中東戦争を経て、エルサレムはイスラエルとヨルダンによる分割統治下に置かれた。ヨルダンに統治されていた東側(三つの聖地を有する旧市街を含む)は、その後1967年の第三次中東戦争を経て、今に至るまでイスラエルにより占領されている。

 現在「東エルサレム」と呼ばれる地域では、アラブ・パレスチナ住民が多数を占めるが、今まさにその地域では、イスラエルによる住民の迫害・排除といった民族浄化が行われている。

 旧市街南部に隣接するシルワン地区ブスタンに代々暮らし、地域の住民委員長を務めるファクリ・アブ・ディアブ氏の家は昨年11月、エルサレム行政によってブルドーザーで破壊された。市当局は2005年、この周辺一帯を、3000年前にこの地にいたとされる「ダビデ王の伝説」に基づき、「キングス・ガーデン」という観光地に造り替えるとして、家々の取り壊しに着手した。その後、住民や国際人道支援を行う人々の活動により、取り壊しは一時中断されていたが、2310月以降、市当局は住民との話し合いを中断し、相次いで強制撤去を行っているという。

「観光開発を建前にしていますが、パレスチナ人の排除を目的としているのです」とファクリさんは語る。

 実際に、旧市街をサークル上に取り囲むようにして家屋や土地の収奪は続いており、イスラエルによる「入植地」が各地に造られている。1967年の占領以後の建築はすべて「違法建築」とされ、法外な罰金が課せられるほか、建築許可を申請してもほぼ却下される。行政サービスやインフラの補修はおざなりにされ、武器を持つ「入植者」による暴力も後を絶たない。突然の逮捕や勾留も日常茶飯事だ。

 ファクリさんは自宅の瓦礫(がれき)の脇にプレハブを建て、そこで妻と暮らしている。

「私たちが立ち退けば、すぐに入植者に土地を奪われてしまうでしょう。ここに暮らし続けることで民族浄化に抵抗を示しているのです」(ファクリさん)

「日本は中立ではない」と、取材中何度も耳にした。国際司法裁判所はイスラエルによる占領を違法とし、国際社会はその維持・加担となる経済関係を阻止する義務などがあるとしている。民族浄化に加担する国でいいのか、日本にも問われている。

(佐藤慧)

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