私たちは本当に「見て」いるのか?
触れて、聴いて、初めてわかる、この社会のかたち。
時に鋭く、そしてあたたかく。ユーモアに満ちた随想集。
2011年から8年にわたり「点字毎日」に好評連載された
「堀越喜晴のちょいと指触り」、待望の書籍化!
2歳の時に光を失った言語学者による、社会の風をとらえたエッセイ。
「目で見ない族」の著者が、この国吹く風を全身で感じる――
私にとって視力は超能力にほかならない。触ってもいないくせに、遠くの物がそれこそ手に取るようにわかるだなんてのは、さながらテレパシーか念力だ。が、ちょうど超能力の持ち合わせがなくたって平気で生きていられるように、物心ついた時からずっと視力なしで世界を相手にしてきた者にとっては、目で見ない生活はごく当たり前のことなのである。私のような者には目に対してのミステリーがある。そして、目で見る族の人たちにも目が見えないことへのミステリーがある。
ならば互いに胸襟を開いて、それぞれのミステリーについて忌憚なく語り合い、「ああ、そうなっているのか」と面白がって互いの目からうろこを落とし合う。これぞまさに健康なコミュニケーションというものじゃないだろうか。そして、そんな楽しいコミュニケーションの風が互いの心に通い合っているならば、「見えなきゃわからんだろう」だの、「見えてるくせに」だのといった、互いへの勝手な忖度も、やがては雲散霧消していくことだろう。
(本文より)
《著者紹介》
堀越喜晴(ほりこし・よしはる)
1957年新潟生まれ。筑波大学大学院博士課程修了。専門は言語学、キリスト教文学。現在、明治大学、立教大学、日本社会事業大学で教鞭をとる。2歳半までに、網膜芽細胞腫により両眼を摘出。1991年から99年まで、NHKラジオ第2放送「視覚障害者のみなさんへ」に出演。また2011年から19年まで「点字毎日」に「堀越喜晴のちょいと指触り」を連載。主な著書に『羊のたわごと 会衆席からのメッセージ』『バリアオーバーコミュニケーション 心に風を通わせよう』(ともにサンパウロ)『ナルニアの隣人たち』(かんよう出版)がある。
目次
はじめに
第1章 目で見ないシーン
目/見た目がなんぼ?/トイレとラスコー洞窟/空気で読む/読書の秋に/奇跡と恵み/私が行かなかった道
第2章 たかが言葉、されど言葉
「見る」/春の日の夢/偽善の研究/いっぱいいっぱい病/言わずもがな/いいあんばい/「自力」と「自立」/もっと言葉を!
第3章 何か変だぞ
きてれつな平等/とある私鉄の物語/バリアフリーという名のバリア/普通名刺の物語/ため口と頭越し/感動は差別?/障害者ゼロの世界/数と効率/社会モデルと世間モデル
第4章 点字は文字だ!
点字と手話/英語と点字/ルイ・ブライユの日本語点字/ああ、点字投票/みなし人間/「見なす」の亡霊、健在なり/点字の生一本
第5章 今、教育の現場で
物語の危機/意味の意味/テレビのごとく/不気味な「進化」/好き/背中の時代の終わり/好ましからざる講演者/最後の授業
第6章 大切な人、大切な場所、大切な記憶
その時/私のイギリス/塩谷治先生のこと/ある先生の思い出/河村ディレクターの予言/永遠の友人/リオデジャネイロの風/アイスランド、ピースランド/通い合う心
第7章 近頃の事件から
ありがたくないバリアフリー/靴と白杖/担保──壁と卵/裸の佐村河内守/顔なき人間/津久井やまゆり園事件と佐村河内守/国挙げてのやまゆり園事件/働き方改革の仕事人/優生思想と核爆弾
おわりに──「罪滅ぼし」と「恩返し」 点字毎日創刊100年に捧ぐ