物書き松重豊、誕生! 軽妙洒脱な筆致で描かれる演者の心象風景。
連作短編小説12編+エッセイ25編を収録!!
「プロローグ」から引き込まれて止まらない。何なんでしょう、この新しさは! 一編一編が妄想のような、夢のような、現実のような......。
僕・俺といった主語がギリギリのところまで省略されているおかげでぐいぐい引き込まれてゆく、これってじつはすごい技術です。
今年(2020年)の、個人的ベスト3に入りますね。
――村山由佳(NHK FM「眠れない貴女へ」より)
『孤独のグルメ』『ヒキタさん!ご懐妊ですよ』『きょうの猫村さん』などさまざまな映画、ドラマで注目を集める著者の初の書籍。書き下ろし連作短編小説「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」と週刊誌「サンデー毎日」の連載エッセイ「演者戯言(えんじゃのざれごと)」の2種を収録。演者だからこそ描くことができた心象風景を、独自の軽妙洒脱な筆致で表現。
「サンデー毎日」連載時から人気を呼んだ旭川在住のイラストレーターあべみちこによるイラストが彩りを添える。
目次
●愚者譫言
バスの中 「プロローグ」
取調室 「第一話」
ガベル 「第二話」
酒場 「第三話」
伴走 「第四話」
土の中 「第五話」
かさぶた 「第六話」
オペ室 「第七話」
仇討ち 「第八話」
日当 「第九話」
独房 「最終話」
鯖煮 「エピローグ」
●演者戯言
設定を変えてしまうほど自白に影響を与える食べ物の存在
昨日ニンニクさんざ食った奴の臨終に立ち会う気分は如何
脳に詰まった起訴状がカレーに追い出され睡魔が襲う午後
異国で異教徒になった日の寿司と浴槽その冷たさについて
沈黙するポテチ片手の羊たちその記念写真が手許に無い件
背が伸びる秘訣をと問われたらとりあえず牛乳と答えるよ
坊主頭の中学生はレゲエとパンクの間で揺れ動くのだった
覚えられないのは茗荷の所為なのよと可愛い文字で書いた
オムレツもエッグベネディクトも便座にしゃがんだあとで
神に見守られた美しい雪隠で考えるのは今宵の夕飯の献立
定食屋の奥に並ぶ宇宙人の眼差しにライス大盛りを完食す
東京特許許可局なんて実際には存在しないものじゃぞ隆景
けして孤独ではないチーム孤独は彼の下で円陣を組むのだ
餃子耳にはなりたくない相撲好きの柔道家の下手な素振り
大晦日紅白の真裏で独り年越す方々と共に食さんと欲する
鬘をとって風呂上がり万願寺唐辛子の甘さを教わった夜に
最初はグーだが皮膚はカタカナよりも漢字を求めたのだった
言っとくけど演者はドットで出来てるわけじゃ無いからね
アンドロイドは博多やわやわうどんの夢を見ていたか否か
折角結婚祝にすき焼き鍋を贈ったんだから別れないでくれ
待ち時間にはカメラに向かって無意味な下ネタを連呼する
師曰く汝が隣人即ち友と限らず写真は撮られる側と限らず
組事務所で咄嗟に噓をつく心のブレに補正は可能だろうか
根気良く注射を打ち続け魔の手から逃れる方法を信じるか
星空にたき火を囲んで人生を語る場を僕が作ってあげよう