59歳、独身、子女はなく家系から政治にかかわった人はほかに出ていません。15年ほど前まで彼女は国際貿易交渉に詳しい一教授にすぎず総統になるとは誰も考えなかった存在でした。
その彼女が今年1月16日に台湾総統選で民進党の蔡英文党首が当選しました。5月20日の就任式で台湾初の女性総統が誕生しました。
対中傾斜を進めた馬総統の後継として、いかに台湾の独自性を維持し、民主主義をさらに強固なものとするか、その政治手腕が注目されています。
本書は、2015年11月に台湾で出版された蔡英文公認の伝記です。
原著が書かれたのはまだ選挙戦中の15年11月であり、台北の城邦文化事業公司(台湾で発行部数最大の雑誌『商業周刊』の発行元)から刊行されました。原著名は『蔡英文――從談判桌到總統府(交渉のテーブルから総統府へ)』です。
著者の張瀞文(ちょう・せいぶん)は、当時は前記雑誌の女性シニア・ライターであり、その後16年5月に創刊されたネット・メディア『信傳媒』の副編集長になりました。
蔡英文当選の可能性がかなり高かった時点で書かれたこともあって、原著は指導者としての蔡英文の人物像と政策主張を比較的冷静に描き出しています。
蔡英文の自著を含む類書と比較してみても、現時点で刊行された評伝としてはベストであると思われます。
原著では、蔡英文がロンドン大学政経学院で博士号を取って大学で教鞭をとるようになった一九八四年当時から書き始めており、ほぼ30年の政治キャリアだけにしぼり、総統就任後の展望についても書かれています。
現代台湾の矛盾と状況を比較的わかりやすく紹介・分析しています。現役記者の文章だから読みやすく、テンポは軽快。昨年11月の馬英九・習近平会談にもかなり詳しく言及しています。また蔡英文総統自らが日本語版の序文を執筆しています。
翻訳 丸山 勝
著者について
ちょう せいぶん/台湾のウェブ・メディア『信傳媒』副総編集長。本書執筆当時は『商業周刊』シニア・ライター。1971年彰化県生まれ、政治大学社会学科卒。主として雑誌で医療、環境問題などの報道に従事し、各種報道賞を受賞した。