米国トランプ大統領の独善的な外交政策の変更、安保理決議に基づく国際合意の破棄は、新たな火種を中東イスラム世界にもたらしている。衝撃的な国際ニュースになった、トランプ政権による2015年締結の「イラン核合意からの離脱」および「在イスラエル大使館のテルアビブからエルサレムへの移転」は、2018年秋の米国中間選挙における福音派の支持拡大を狙った思惑が見え隠れする。
しかし、アメリカによる中東国家の体制転換は、イスラエルによる入植地拡大による故地を奪われたパレスチナ人の反発と数多くの軍事衝突によってイスラム世界の一般市民に血の犠牲を強いた。さらに、欧米、とくにヨーロッパ諸国にはテロや難民など深刻な混乱をもたらしてきた。中東地図を書き換えるトランプ政権によるイスラム国家のさらなる大変動は、石油価格を上昇させ、株価の下落を招くなど日本経済にも重大な影響を及ぼすことは必至である。
本書では、強硬で、矛盾に満ちたトランプの米国・イスラエル・サウジアラビアの枢軸国とイラン・ロシア・中国・ヨーロッパという対立軸から現在の世界の地戦略(=地政学+地形学)の構図を考え、世界の平和や安定構築のためのあるべき方途とその対立軸における日本の役割、および国際社会・世界経済への重大な影響をイスラム研究の第一人者である国際政治学者の宮田律氏が徹底解析する。
目次
第1章 アメリカ大使館「エルサレム移転」が意味する血の犠牲著者について
みやた おさむ/現代イスラム研究センター理事長。1955年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科史学専攻修士課程修了。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院修士課程(歴史学)修了。一般社団法人・現代イスラム研究センター理事長。専門はイスラム地域研究、国際関係論。著書に『中東イスラーム民族史』(中公新書)、『イスラムの人はなぜ日本を尊敬するのか』(新潮新書)、 『石油・武器・麻薬』(講談社現代新書)、『オリエント世界はなぜ崩壊したか』(新潮選書)などがある。