宮内庁が公開した『昭和天皇実録』を丹念に読み抜き、昭和という時代、昭和天皇という存在をさらに深く記録する、昭和史研究者としての著者が満を持した試みの第3巻。
今回は二・二六事件と日中戦争の時代を扱う。日本社会がテロとファシズムに覆われ、軍部の台頭に誰も抗えなくなり、日本が中国に進出してゆく時期である。戦争が拡大してゆくこの時期、天皇がいかに生きたかを、『昭和天皇実録』を歴史を追って読み込みながら、その都度、著者の昭和史への識見により史実を拡充して語っていく。
その後太平洋戦争へと進展してゆく日中戦争の時代に、天皇と軍部との間ではすでに軋轢や齟齬が様々に表面化しており、それが西園寺公望ら側近や近衛文麿や政治家をも巻き込んで権力の内部で複雑な関係を形成していたいたことが明らかにされる。天皇は国際政治を冷静に見つめる視点を保持しており、戦争に批判的な立場をとりつつも、徐々に軍部の動向を追認せざるを得なくなっていく。天皇個人の時代経験を丹念に調べ上げ、書き込むなかから、天皇と天皇制が軍事に利用された時代を批判的に振り返ろうとする著者の意志が浮き上がってくる。
天皇と「戦争の時代」を、2016年の翼賛的状況のなかで再考する瞠目の論考も収録。