歴史家の仕事とは
戦後80年――今こそ歴史を振り返り、
あるべき国家と国民の関係を考える。
日本近現代史の泰斗が、国家と国民、東日本大震災、
天皇と天皇制、戦争の記憶、世界と日本、
そして日本学術会議会員任命拒否問題を論じる。
戦後80年を前に、国家と国民の関係が大きく揺れ動いている。
危機の時代とも言うべき今こそ、
その関係を国民の側から問い返し、
見つめ直すことが必須となる。
話題のベストセラー、新たに9編を増補し、待望の文庫化。
【著者紹介】
加藤陽子(かとう・ようこ)
1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科教授。1989年、東京大学大学院博士課程修了。山梨大学助教授、スタンフォード大学フーバー研究所訪問研究員などを経て現職。専攻は日本近現代史。2010年、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)で小林秀雄賞受賞。『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』(朝日出版社)で紀伊國屋じんぶん大賞2017受賞。著書に『模索する一九三〇年代[新装版] 日米関係と陸軍中堅層』(山川出版社)、『戦争の日本近現代史』(講談社現代新書)、『戦争の論理日露戦争から太平洋戦争まで』(勁草書房)、『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)、『昭和天皇と戦争の世紀』(講談社学術文庫)、『天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承』(績文堂出版)、『天皇と軍隊の近代史』(勁草書房)、『歴史の本棚』(毎日新聞出版)などがある。
目次
はじめに
第1章 国家に問う 今こそ歴史を見直すべき
・コロナ禍への最良の方策を求めて――偽政者・専門家・国民をつなぐ鍵とは
・五輪開催の可否は科学的知見で 国内外への説得の論理――終戦の詔書の考察から
・それでも、日本人は「五輪」を選んだ 国民の命を賭けた政策はなぜ繰り返されるのか
・パンデミック下での東京五輪と核戦争を描いた書 その恐るべき共通点
・公的学術機関の専門性・人選の自律性を憲法が保障する理由――歴史から考える
・「学術会議6人除外」と日本の科学技術政策の向かう先
・個人が尊重されるかどうか 国民世論のありかに信頼
・自己への揺るぎない評価軸を得るための二つの途
・国民に自宅「療養」を強いる官邸の暴走 「この国のかたち」はどこで道を誤ったのか
・新型コロナ対策の検証には議事録が不可欠 失敗を繰り返さないために
・国民世論が検察に立ち向かった時
・科学技術政策の適正な舵取りを求めて――科学はボトムアップから
・政治の姿勢を歴史に刻むため、「実より「名」を取る――説明なしの任命拒否、その事実と経緯を後世に残すために
・危機の時代に必須の政治指導者の資質とは
・透明性と公平性維持のための静かな闘い――東京大学総長選挙に思う
・学術会議問題の政治過程世論が政府の姿勢を「変えた」
・衆議院議員選挙の結果を振り返る 「無党派党」の合理的選択をいかに取り込むか
第2章 震災の教訓東日本大震災10年を経て
・原発を「許容していた」私
・震災と責任の丸投げ 立憲的に動けぬ国家よ
・失敗情報の「知識化」こそが、事故や失敗を未然に防ぐワクチン
・原発事故の原因 欠けていた俯瞰と総合
・大震災、国の記録 政治家の気迫伝わるか
・公文書の不在 根幹に政治の不在
・原発事故と原爆――彼岸から語りかける理性
第3章「公共の守護者」としての天皇像 天皇制に何を求めるか
・天皇と国民をつなぐ 「神話」の解体のためには
・今こそ皇室典範=皇室法改正論議を
・歴史の大きな分水嶺だった元号法制化――天皇が譲位する国で
・「国民の総意」に立脚し、変容を迫られる天皇の地位
・開戦の詔書に込めた天皇の真意とは果たして――天皇機関説事件から読み取る
・国体という言葉があった時代、その時軍部は
第4章 戦争の記憶 歴史は戦争をどう捉えたか
・歴史見直しに消極的な日本、「復元ポイント」はどこに
・内村鑑三が見通していた戦争の本質とは
・焼かれなかった一枚の付箋が語る敗戦処理の真実
・早すぎた日本の戦後構想――二つの世界大戦に見る
・第一次世界大戦は日本社会にいかなる衝撃を与えたのか
・「12・8」を迎えて思う、通牒で削除された開戦の意図
・史実と向き合い、歴史の「長い記憶」を学ぶ
・政治家を葬り世論を操作した旧陸軍の謀略
・戦争の本当の理由と国家からの説明はなぜ異なっていたのか
・9条の意義、見つめ直すべき時
・井上ひさしが追い続けた「かけがえなさ秘めた笑い」
第5章 世界の中の日本 外交の歴史をたどる
・権力簒奪への「正当性」をまとう、議会と暴力の関係性
・新型コロナと対中戦略 焦燥感より冷静な「構想」
・危機意識の欠如を生み出した日本に漂う「人ごと感」
・変容を始めた安全保障、注目されるサイバー空間の「国防」
・中国大陸の東、太平洋の西に位置する日本から中国を見る
・中国外交の特徴を歴史に学ぶ
・対日参戦は国際共同行動の結果と捉える ソ連の歴史認識との深い溝
・経済変動と歴史 近代400年の終わりに
・日本と日本人 その自己イメージは正確なのか
・幾つかの日本人像 アナーキーで巧妙で
・防災と国防 どう激烈の度を増すのか
・孤独恐れる時代に日々の風景、変わる体験を
・武力をたのむ国は自滅する――露軍のウクライナ侵攻が伝えるもの
第6章 歴史の本棚
Ⅰ 国家に問う
・情報公開法・公文書管理法の空洞化を憂慮する――『国家と秘密隠される公文書』
・低い姿勢で時代と対峙し解析する ――『思いつきで世界は進む 「遠い地平、 低い視点」で考えた50のこと』
Ⅱ 震災の教訓
・“現代のリスク”とどう向き合うか――『ユーロ消滅?ドイツ化するヨーロッパへの警告』
Ⅲ 天皇と天皇制
・天皇の気持ちをなぞる読書体験――『昭和天皇の戦争「昭和天皇実録」に残されたこと・消されたこと』
・時代ごとの特徴を簡潔に学ぶ――『皇位継承歴史をふりかえり変化を見定める』
・皇室活動のあるべき姿を考えるヒントに――『皇室財産の政治史 明治二〇年代の御料地「処分」と宮中・府中』
・日本の屈折姿勢 背景に列強への警戒心――『朝鮮王公族――帝国日本の準皇族』
Ⅳ 戦争の記憶
・「歴史の宝石」を記憶するために――『初日への手紙ー「東京裁判三部作」のできるまで』
・「個人として尊重される」かどうかを問い掛ける――『なぜ戦争は伝わりやすく平和は伝わりにくいのか』
・占領がもたらす容赦ない「普遍的苦しみ」――『古都の占領生活史からみる京都1945–1952』
・秋丸機関をめぐる神話にメス――『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』
Ⅴ 世界の中の日本
・若者と国家の双方にいかに生きるか指南する――『本当の戦争の話をしよう世界の「対立」を仕切る』
・停戦合意が破られた戦場では何が起きていたのか――『告白あるPKO隊員の死 ・23年目の真実』
おわりに
文庫版おわりに
初出一覧