「命をつなぐ」
どうしてこんなに難しいのだろう、この国では――。
臓器提供する側とされる側、それぞれの現実とは?
腎移植記者による唯一無二のルポルタージュ。
臓器移植とは、重い病気や事故などにより臓器の機能が低下した人に、他者の健康な臓器と取り替えて機能を回復させる医療である。第三者の善意による臓器の提供、そして社会の理解と支援があって成り立つ。
末期腎不全を患った筆者は2019年夏、母親からの生体腎移植を受けた。死の淵をも垣間見た壮絶な闘病の日々を克明に綴る。さらに、移植を待つ患者と家族、臓器を提供したドナーの家族、医療関係者ら多くの識者を綿密に取材し、日本でタブー視されることの多かった臓器移植の実態をルポ。
日本では約1万6000人が臓器移植を待つ一方、脳死下と心停止下を合わせた臓器提供数は年間100例程度にとどまる。2023年には150例まで増えたが、まだ低調と言わざるを得ない。臓器提供できる病院が限られるなど体制が整わないことをはじめ、いくつかの理由があるからだ。そのため、待機年数は長期化の一途をたどっている。
待っている間に病状が悪化し、命を落とす人も少なくない。国内で提供が受けられず海外渡航して臓器移植を受ける場合、手術費や入院費、専用機のチャーター費などを合わせると数億円が必要となる。
なぜ日本では臓器提供・移植医療が進まないのか。今後に向けて何が求められるのか。臓器移植に対する理解が深まり、「助かる命を救えない現状」を打破する一助となる渾身の書。
目次
第1章 悪化する一方の腎機能、生体腎移植を決心するまで
第2章 母の腎臓を移植、生きる意味を見出す
第3章 脳死心臓移植ルポ――レシピエントとドナー家族の葛藤
第4章 小児心臓移植ルポ――子どもの命に向き合う親の悲壮な覚悟
第5章 移植の現状と課題――識者インタビュー
著者について
毎日新聞東京本社編集編成局くらし科学環境部医療プレミア編集グループ記者。1977年生まれ。2003年に早稲田大学を卒業し、毎日新聞社に入社。佐世保支局を振り出しに、福岡報道部、同運動グループ、川崎支局、東京運動部、同地方部などを経て2023年4月から現職。2017年に慢性腎不全が発覚し、2019年に実母からの生体腎移植手術で救われた経験から、臓器移植関連取材や病で苦しんだ経験を持つ人へのインタビュー取材をライフワークとしている。一人娘が生まれた時、初めての上司(御手洗恭二さん)からかけてもらった言葉「子どもは生きているだけでいいんだよ」を心の支えにしている。