サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年1月27日号
水野学 クリエーティブディレクター
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阿木燿子の艶もたけなわ/236

熊本県の人気キャラクター「くまモン」をはじめ、企業や行政のロゴやキャラクター、パッケージデザインなど数多くのプロジェクトを手掛けてきた水野学さん。その水野さんは昨年、『いちばん大切なのに誰も教えてくれない 段取りの教科書』(ダイヤモンド社)を出版しました。阿木さんが、多岐にわたる水野さんの仕事術のヒミツに迫ります。

◇くまモンは能面のように見る角度で表情が変わって見えたらいいなと考えたんです。

◇私、部屋の片付けが苦手で、同じようにいつも脳の中はなかなか整理整頓ができない。

◇その解決法は、できるだけ考え事や問題点を頭の中に置いておかないことがポイント。

阿木 水野さんはクリエーティブディレクターでいらっしゃいますが、紙面でご紹介するのに、一番分かりやすいのは"くまモンの生みの親"。あちらこちらでそう言われませんか?

水野 僕は生みの親の一人ではありますが、くまモンがこれほどまでに皆さんに愛されるようになったのは、育ての親が立派だったからだと思います。

阿木 今やくまモンはゆるキャラの王様。キャラクターって、当たると経済効果は計り知れないでしょう? それにしても、熊本県の方々はよくぞ、くまモンのロイヤルティーを取らなかったですね。でも今、ちょっと残念に思っているかも(笑)。

水野 そこですよね。僕、ロイヤルティーを取らなかったからこそ、くまモンはここまで広まったんだと思うんです。

阿木 そもそも、くまモン誕生のきっかけは?

水野 熊本県のPRアドバイザーの小山薫堂(注1)さんから、僕への依頼として、「くまもとサプライズ」というプロジェクトを立ち上げたので、ロゴをデザインしてほしいということでした。

阿木 じゃ、最初はゆるキャラの依頼じゃなかった?

水野 そうです。ただ、僕としては、ウェブサイトやロゴを作るだけで、盛り上がるかなという思いがあって。でも、そうは思いつつも、まずはロゴを完成させたんですが、プレゼン数日前の段階で、もう少し効果的な方法はないかなと考えてしまい......。

阿木 ではスタートはそこから?

水野 はい。シールが貼ってあるだけで、僕は楽しいだろうか? 八百屋さんの店先に、メロンやスイカが並んでいる。くまもとサプライズのロゴシールを見ている僕。それで、買おう、と思うだろうかと。そこで、宣伝マンが居たら、と閃(ひらめ)いたんです。その時、頭に浮かんだのが東国原英夫(注2)さんでした。

阿木 当時、東国原さんは宮崎県の県知事。宮崎県のPRマンとして活躍してらっしゃいましたよね。宮崎空港に降り立つと、東国原さんのキャラクターマークがバンバン貼られていて、県知事がここまでやるか、という感じでしたが。

水野 それで彼をモデルケースにすることにしたんです。

阿木 くまモンは、天皇、皇后両陛下のお目にも留まり、皇后さまが、くまモンに「お一人なの?」と話しかけられたとか?

水野 そうです。そうおっしゃったみたいで。

阿木 両陛下は、とてもユーモアのセンスがお有りですよね。

水野 普段、うちの親から電話なんか掛かってこないんですが、すぐ掛かってきて「ちゃんと考えてやらなきゃ駄目よ」と久しぶりに叱られました。

阿木 考えて、というのは?

水野 失礼がないように、真面目に考えたの?という意味だと思います。僕は関係ないのに......(笑)。

阿木 それにしても、くまモンは親しみやすい顔をしていますよね。可愛すぎないところがいい。

水野 いろいろ考えた結果、単純な形の組み合わせにしたんです。覚えやすい、親しみやすいというのは、まずそこにあるのではないかなと。シンプルにすることで、覚えてもらいやすくしたというか。

阿木 ディテールで、一番こだわった点は?

水野 くまもとサプライズというプロジェクトから生まれたキャラクターなので、まず驚いていることが大事かなと。

阿木 くまモンって、驚いているんですか? 確かに言われてみれば、目がびっくりしていますね。

水野 能面のように、見る角度で表情が変わって見えたらいいなと考えたんです。

阿木 発想の原点が能面とは、意外ですね。

水野 例えば、自分が悲しい時は優しく見えたり、怒っている時は諫(いさ)めてくれるような、そういうキャラクターができないかなと。

阿木 そこが他のゆるキャラと違うところですね。ただ可愛いだけじゃなく、ちゃんと引き算の要素がある。そして、引いた分は見る人が足せる。キャラクターって押し付けがましくなりがちですよね。「さあ、どうだ、可愛いだろう」みたいな。私、ゆるキャラに懐疑的なんです。ここまで氾濫すると、日本の文化を幼児化させている気がして。

水野 実は僕も、ゆるキャラには決して好意的ではなく、自分は一生関わらないだろうと思っていたんです。その僕が、くまモンを作ることになるとは、夢にも思っていませんでした。自分自身を納得させるためかもしれませんが、僕、「なぜこんなにも日本人は、キャラクターが好きなんだろう?」と考えたことがあって。

阿木 どうしてなんですか?

水野 僕の考えでは、八百万(やおよろず)の神信仰に基づくものなのでは、と。

阿木 一神教ではなく、多神教ということですね。

水野 日本人には、岩にも、風にも、木々にも神々が宿っているという考え方がありますよね。森羅万象に命が吹き込まれているという時点で、すべてを愛(いと)おしいものと感じる民族性が、キャラクター好きに通じるのかなと。

阿木 基本的に一神教の宗教は、偶像礼拝禁止ですよね。キリスト教しかりユダヤ教しかりで。それに比べると日本は、巷(ちまた)の神々が無限に存在する。

水野 面白いのが、アイルランドにも似たような文化が根付いていることなんです。大陸の西の端のアイルランドと、東の端の日本に同じような文化があるというのは、日が昇り、日が沈んでいくことと何か関係しているのではと、そんなふうに思ったりもします。

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