サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2019年1月20日号
十朱幸代 女優
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阿木燿子の艶もたけなわ/235

15歳で女優デビューをして以来、テレビドラマ、映画、舞台など幅広いジャンルで活躍を続けている十朱幸代さん。昨秋出版した初の自叙伝『愛し続ける私』(集英社)は、増刷を重ねるヒット本となっています。そんな十朱さんの足跡を辿るとともに、気になる恋バナや健康問題についてもじっくりと伺いました。お楽しみください。

◇あっ!森繁久彌さんに一度お尻を触られたことを思い出しました(笑)。

◇素敵な男性との巡り合いが、たくさんお有りになって。羨ましいです(笑)。

◇逆に私は、燿子さんみたいに、ずっと一人の男性と一緒に居るのに憧れます。

阿木 お久しぶりです。大分以前に私、十朱さん主演のテレビドラマに、女優として出させて頂いて。

十朱 覚えていてくださったのね。

阿木 もちろんです。私みたいな者が、十朱さんと共演させて頂いたんですから。私、あの現場で、女優さんというのは、こういう方を言うんだなあ、と思っておりました。

十朱 そんなぁ。私は女優らしくない女優で売っておりますけど(笑)。

阿木 私が感じたのは、どんな監督さんよりも、名だたる女優さんは現場を多く踏んでいらっしゃる。監督って意外に、一生の間に何本も作品を撮れないでしょう?

十朱 そういう方もいるけど、数で勝負なさる監督だって(笑)。

阿木 でも、女優さんのほうが、圧倒的に場数が多いのでは?

十朱 確かに私、数だけは誰にも負けないかもしれません。何しろ、私の女優デビューは、NHKのテレビドラマの「バス通り裏」。あれ、連ドラだったから、月~金で、5年間なの。なので、数だけはね。

阿木 私がご一緒させて頂いたドラマでは、十朱さんが監督さんに何かおっしゃる度に、その指摘が物凄(すご)く的確で。例えば料理のシーンだったら「そういうふうに大根は切るものじゃないわよ」とか。普通の主婦より、ご存じだなって。

十朱 あぁ、恥ずかしい。生意気だったんでしょうね、きっと(笑)。

阿木 私が子供の頃、テレビはとても身近なもので、とくに「バス通り裏」って、今の朝ドラに近い感じでしたよね。

十朱 そう、ちょうど朝ドラ。あの時は、日本中、何処(どこ)へ行っても、役名で呼ばれましたもの。

阿木 「元子さん」ですよね。でも、それからの脱皮が大変だったのでは?

十朱 「スーパーマン」の役者さんが、あまりに役のイメージが強すぎて他の役ができなくなって、自殺なさいましたよね。私、まだ女優意識もないくせに「このまま元子ちゃんで終わっちゃうのかな」と思ったことがあります。

阿木 女優さんにとって、当たり役はありがたくもあり、手枷(かせ)足枷になることも。

十朱 そうなんです。「バス通り裏」が終わってから何年かは、同じような役ばかりがきて。同世代の松竹の女優さん達が、大人の陰影のある役をなさると、「ああ、羨ましいな。ああいうのをやってみたいな」って、いつも思ってました。

阿木 女優さんにとって、どんな作品に出るかは、大きいことですよね。

十朱 私は「バス通り裏」でデビューした時は、全くの素人。その後1年くらい経(た)って、松竹で木下惠介監督の「惜春鳥(せきしゅんちょう)」という映画に出させて頂いたんです。それも抜擢(ばってき)だったんですね。またしばらくして、舞台の「おせん」のヒロインの役も抜擢で。そんなふうに、ずっとどこにも所属せずに、やってきたんです。

阿木 言い換えれば、いきなり他流試合。それもお一人で、単身で乗り込む感じですよね。

十朱 若い時は、怖いもの知らずだったので、そんなこともできたんでしょうね。

阿木 「惜春鳥」の時は、木下監督が「奇麗に撮ってあげるよ」とおっしゃったとか。

十朱 あの頃は、映画に出る大スターは美男美女だったんです。それなのに、そこら辺のお姉ちゃんみたいなのが来て、監督は困惑なさったんじゃないかしら。じーっと私の顔をご覧になって、そうおっしゃったの。

阿木 じーっとご覧になった後の一言だとすると、ちょっと意味を考えてしまうかも(笑)。

十朱 本当。きっとびっくりなさったんだと思います。当時の女優は、まず奇麗じゃないとダメだったんです。

阿木 十朱さんで驚かれるようじゃ、誰も希望が持てない(笑)。

十朱 いえいえ。テレビの普及と同時に、リアルさを追求するようになって、私みたいな者が出られたんです。

阿木 十朱さんは、テレビも映画も舞台もなさり、女優さんのフルコースですね。

十朱 そうですね。昔は「舞台女優」「映画女優」という言い方があって、テレビは「タレント」と言っていました。確かに、あの時代は舞台の方は舞台だけだし、映画の方はテレビにはお出にならなかったし。

阿木 思えば、舞台の人がテレビに出ると、ちょっとオーバーだったり、科白(せりふ)回しが不自然だったりしましたよね。

十朱 初期の頃はね。でも、長谷川一夫先生なんかは、舞台が長い方ですが、テレビドラマの時代劇でも、とてもリアリティーがありましたよ。

阿木 森繁久彌さんもそうでしたね。舞台、テレビ、映画、どれに出られてもぴったりはまっていて。

十朱 そうですね。俳優として偉大な方でしたよね。私も森繁劇団で、娘役として出させて頂いたことがあって。

阿木 森繁さんに、お尻を触られなかったんですか?

十朱 そうなの。触られるとその女優は出世すると言われたんですけど、私は全くなくて(笑)。

阿木 若すぎたのかも(笑)。

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