サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2018年12月 9日号
沖仁 フラメンコギタリスト
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阿木燿子の艶もたけなわ/230

8年前、フラメンコギターの本場、スペインで日本人初のコンクール優勝を成し遂げ、一躍脚光を浴びた沖仁さん。超絶なテクニックとともに豊かな感情表現で、フラメンコにとどまらず、さまざまなジャンルのアーティストとコラボレーションするなど、精力的な活動を行っています。今回は、その沖さんの音楽の源泉についてじっくり伺いました。

◇コンテスト決勝戦では、ただひたすらおばあちゃんのことを考えて弾いていた。

◇お子さんが生まれて、演奏スタイルは変わりました?作る曲にも変化が?

◇子供のために書いた曲はたくさんありますが、やはり優しい曲になりますよね。

阿木 沖さんと私には共通の友人が居るんですよね。草野千夫(たてお)さんとおっしゃる方で、ODA(政府開発援助)のお仕事をなさっていたんですが、沖さんのお噂(うわさ)は草野さんからよく伺ってました。

沖 僕もです。そもそもお二人は、どういうご関係なんですか?

阿木 私が下手の横好きでフラメンコを習っていた頃、同じ先生に師事していたんです。

沖 じゃ、フラメンコ仲間?

阿木 そうですね。その草野さんと沖さんは、ネパールで初めて会われたんですよね。お仕事柄、草野さんは世界中を飛び回っていらっしゃったんだけど、ネパール国王の妹さんに頼まれてカトマンズで踊ることになった時、急遽(きゅうきょ)ギタリストが必要になり、日本に連絡をしたら、沖さんが掴(つか)まったとか。それまで沖さんと草野さん、面識がなかったんでしょう? よく見も知らない人のオファーで、そんな遠くまで、二つ返事で行きましたね。

沖 あの頃の僕は立場も無いし、仕事も無いし、怖いもの無しの感じだったんです。

阿木 暇だけがあった?(笑)。

沖 本当にそうで、ついでにお金も無くて(笑)。なので、「2週間後にネパールに来てほしい」と言われたら、「いいですよ」って。

阿木 それにしてもネパールみたいな馴染(なじ)みの薄い国に、よくヒョイと行けますね。そのフットワークの軽さが、若者っぽい(笑)。

沖 何しろ、あの頃の僕は好奇心の塊だったもので。それにスペインから一時帰国していた時期だったので、日本に居るより面白いかなと思って。あの時の草野さんの話では、踊りの伴奏だけではなく、現地のミュージシャンとコラボレーションができるということだったので、ネパールの音楽にも興味があったし。

阿木 ヒマラヤの雪をバックにしたステージだったとか。シチュエーションがドラマチック。

沖 あの時、僕が感銘を受けたのは11~12歳くらいの身寄りのない少女達の踊りなんです。カタックダンスってやつで。

阿木 フラメンコの原形みたいな踊りですよね。足を鳴らして踊る。

沖 その少女達の表情が本当に生き生きしていたんです。草野さんから聞いた話だと、彼女達はいずれインドに売られていくんだそうで、そんな苛酷な身の上を本人達も分かっているのに、本当に笑顔が輝いていて。

阿木 バックグラウンドが見えると、なおのこと心に残りますね。

沖 あの時、少女達と共演させて貰(もら)ったことは、お金では買えない経験でしたね。

阿木 その後も草野さんのご縁で、いろいろな国にいらっしゃったんですよね?

沖 そうですね。ボリビア、キューバ、アルゼンチン、ブラジル、ラオスと、中南米を中心に世界中を回らせて貰いました。

阿木 じゃ、行った先々で、現地の人とのコラボを?

沖 ええ、さまざまな出会いがあって。お国柄というより、人によるんですけど、マエストロ(大家)タイプとか、音楽の先生をしているような人は案外気難しかったりするんです。でも、ネパールの現地の人達はとても気さくで、次の日、家に呼んでもらって、奥さんの作ったカレーを御馳走(ごちそう)になったりして。ただ、後でお腹(なか)を壊して大変でしたけど(笑)。

阿木 フラメンコギターと現地の楽器では、どんなふうに合わせるんですか? チューニングからして違うでしょう?

沖 スペインは、フラメンコに対して割に保守的なところがあるので、とくに僕が住んでいたヘレス(注1)の街はフラメンコの発祥の地だけあって、形式美みたいなものを重んじるんです。ヘレス以外のスタイルは認めない、マドリードもセビリアも駄目だみたいな。だから、ラオスなんかでは気が楽でしたね。何しろノールールなもので。

阿木 音階もドレミじゃなくて?

沖 第一、楽器がお刺し身の舟盛りに似た形をしてるんです。鉄琴みたいなんですが、それはもうチューニングをいじれない。だから、こちらが合わせるしかない。しかも、今まで合わせたことのない音程で。でも逆に、凄(すご)く自由に演奏ができて。あれが僕の中のコラボの原点になった感じですね。"お刺し身の舟盛り"をくぐり抜けたら、どんなコラボも怖くない(笑)。

阿木 どんと来い、みたいな(笑)。

沖 いえいえ、そんな(笑)。ただ、何か掴んだ気はするんです。

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