サンデー毎日

対談
艶もたけなわ
2018年8月19日号
稲川淳二 怪談家、工業デザイナー
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阿木燿子の艶もたけなわ/215

夏の風物詩といえば、怪談。
怪談といえばこの人、稲川淳二さん。かつてはオーバーなリアクションでバラエティー番組をはじめ、リポーターや俳優としても活躍し、テレビに毎日のように出演していましたが、現在は怪談家として全国各地を飛び回る日々。ツアーでのエピソードなどをはじめ、数々の秘話を速射砲トークでお届けします。

◇怪談ツアーをやらせて頂いている間に、5組カップルが生まれているんです。

◇稲川さんの怪談は実話というより、創作ですよね。ネタ元はご自身の足で集められる。

◇よく調べてくださって。天下の阿木燿子さんが。私、明日、死んでもいいです(笑)。 阿木 暑いですねぇ。

稲川 そうですねぇ。怪談をやるにはこれくらい暑くないとね。そういうイメージってあるじゃないですか? 冷やし中華が出てくると、私の季節なんです。

阿木 それにしても怪談ツアー、54公演(注1)とは凄(すご)い回数ですね。

稲川 去年がちょうど、このツアーを始めてから25周年だったんです。私が古希になることもあって、ちょっと頑張ってみようかなというのでやったら、次に減らすのが難しくなってしまって。

阿木 それだけ、「来てください」という、お声が掛かるということですよね。

稲川 ありがたいです。

阿木 お客様は、リピーターが多いんですか?

稲川 毎年、来てくださる方もいらっしゃいますし、結構なお年のお父さん達なんですが、2人組で二十何カ所、来てくださったりとか。

阿木 追っかけですか?

稲川 追っかけって言ったって、60歳は過ぎてると思うんで、交通費だって馬鹿にならないし、ホテル代も大変だから、来なくていいって言ってるんですけどね。

阿木 でも、そのお二人にとれば、稲川さんの怪談を聴くのが、何よりもの楽しみなんでしょうね。

稲川 ただ怪談を聴きに来るんじゃなくて、故郷みたいだとおっしゃってくださる方が居るのが嬉(うれ)しくて。だいぶ以前ですが、ある男性から手紙を頂きまして。その方、幼い頃に両親を亡くされ、親類をたらい回しにされたんだそうです。それで、自分には故郷が無いと。今は結婚して、お子さんも居て、幸せに暮らしているんですが、稲川さんの怪談ツアーに参加するのをとても楽しみにしていますって、書かれてあって。毎年毎年、会場で見知った顔ができ、ある時気付いたら、何だか田舎に帰ったような気分になるんだそうで。そして、稲川さんが会ったこともない、父親のように思えてきたって言うんです。

阿木 そこまで思ってくださるなんて、ありがたいですね。

稲川 それで今年も田舎に帰ります。お父さんに会いにって。私、それを読んだ時、胸が熱くなっちゃって。結構、そういう人が居るんです。怪談というのは、人と人の距離を短くするんです。

阿木 聞いているうちに、お隣のお客様同士が、身を寄せ合うようになる?

稲川 そうなんです。冬でも夏でも海なんかで焚(た)き火をしていて、誰かが怖い話をし出すと、みんな、ワッとか言って、近寄るじゃないですか? 実はこの怪談ツアー、やらせて頂いている間に、5組カップルが生まれているんです。

阿木 えっ、それはまた! 稲川さんは縁結びの神様(笑)。

稲川 こうなってくると、婚活の世界ですね(笑)。

阿木 ということはお客様に、若い方が多い?

稲川 多いですね。小さなお子さん連れで来てくださったりね。それ以外にも、私よりずっと年上と思(おぼ)しき方がいらっしゃったり。何と物好きな、わざわざ電車賃を使って......とは思うんですが、喜んで聴いてくださる姿に、本当にありがたいな、と思います。

阿木 話芸というか、話術ひとつで全国40カ所以上、ツアーなさるなんて、本当に凄いですね。

稲川 私、もしかすると、自分にはテキ屋的な要素というか、詐欺師的な要素があるんじゃないかと思うんです。ウチのプロデューサーにも言われるんです。嘘(うそ)をつきますからね、私、結構(笑)。

阿木 もともと稲川さんの怪談は実話というより、創作なんですよね。ただし、そのモチーフになっているネタ元みたいなものは、ご自身の足で集められる。

稲川 よく調べてくださって。驚きました。天下の阿木燿子さんが、こんな私のことを丁寧に調べてくださって。私、明日、死んでもいいです(笑)。

阿木 よく、おっしゃいます(笑)。

稲川 ウチの女房なんか、私のこと、ほとんど知りませんものね。ええ、28年間、ずっと別居しておりますから(笑)。

阿木 お会いになるのは共通の知人のご葬儀の場で、喪服の時ばかりだとか(笑)。

稲川 ああ、そこまで! 本当に感動でいっぱいです(笑)。

阿木 こちらこそ恐縮です(笑)。ところで、お話は場所によって変えられるんですか?

稲川 一応、その年の良い話を中心に、とは決めているんですけど、1カ所で3日とか4日とかやる時は、やはり差し替えないと。

阿木 そうですよね。毎日、来るお客さん方もいらっしゃるのでしょうし。

稲川 来るんじゃないよ、って言ってるのに来ちゃうんです。それも同じ席に座っている。聞いたことがあるんです。アンタが怪談じゃないかって。ずっと同じ顔をして座ってる。

阿木 こうしてお話を伺っているだけでも百面相というか、本当に表情豊かでいらっしゃる。

稲川 私、きっと舞台では、取り憑(つ)かれているんです。

阿木 稲川さんご自身は霊の存在を信じていらっしゃるんですか?

稲川 実際、不思議な体験をしておりますし。

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