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2021年6月 6日号
行政 法案を取り下げればいいのか 「再発防止」は程遠い入管行政
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 外国人の在留管理を厳格化する入管法の改正案。政府・与党は5月18日、今国会での成立を断念した。審議に大きな影響を与えたのが、名古屋出入国在留管理局(入管)に収容されていたスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(当時33歳)の死だ。

 ウィシュマさんは、日本で英語を教えたいと2017年6月に来日。千葉県の日本語学校で学んでいたが、学費を払えなくなり在留資格を失った。同居していたスリランカ人男性のDVから逃れようと昨年8月、交番に駆け込むと不法残留容疑で逮捕され、名古屋入管に収容された。

 今年に入り食事や飲み物を取っても戻し、衰弱して歩行も困難に。面会を重ねた支援団体STARTメンバーは「このままでは死んでしまう」と入管に訴えていた。一時的に収容を解く仮放免を2度申請したが、認められることなく3月6日に亡くなった。法務省の中間報告によると、体重は半年で約20㌔も減った。

 ウィシュマさんの葬儀は5月16日、名古屋市内で営まれた。2週間前に来日した妹2人は同日朝、遺体と対面したばかり。次女のワユミさん(28)は「姉が大好きだった国なのに、こんなことになってしまって耐えられないです」と参列者にあいさつした。翌17日にはウィシュマさんが収容されていた名古屋入管の「単独室」を視察。「すごく小さく、動物の部屋みたいだった」と涙ながらに話した。

 中間報告は数々の隠蔽(いんぺい)が指摘され、収容の様子を収めた監視カメラ映像の開示も法務省は拒んだままだ。「ちゃんとした答えが出ないと(母国に残した)お母さんの質問に答えられないので帰国できません」。ワユミさんは訴える。

「死の真相解明が先だ」という声に押され、改正案は退けられた。だが、STARTによると、名古屋入管では仮放免が認められず、食事を取れなくなった収容者が、本人が嫌がる単独室に移されるなど「再発防止」とは程遠い対応が続いている。

(井澤宏明)

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