米アマゾン・ドットコムは9月9日、「米国で働く75万人以上の従業員向けに大学などの授業料、教科書代、その他の費用を含む学費を全額負担する」と発表した。大学のほか、高校卒業資格を取得するための講座、それに移民向けの英語教育の費用も負担する。負担額は2025年までに12億㌦(約1320億円)に上るという。
アマゾンは「フルフィルメントセンター」という物流倉庫を世界各地に設置している。センターの一部には、従業員向けの講義に使う教室がある。同社の発表によれば、今後、全米37州のセンターに110室以上の教室を設けるという。
他社でも似たような動きがある。米小売り大手のウォルマートは7月、同業のターゲットは8月、それぞれ従業員向けの学費負担を発表している。
大企業が相次いで従業員の学費を負担するのはなぜか。アマゾンのオルサブスキー最高財務責任者は7月、第2四半期決算の説明会で事情をこう説明した。
「入社契約時に手渡すお金に多額を費やすなど、必要な人材を確保するには費用がかかります。今、労働市場は(求人側にとって)競争が非常に厳しい」
米シンクタンクのブルッキングス研究所が公表するデータによれば、学歴別の年収中央値は勤続14年の場合、高卒3万3000㌦(約360万円)、短大卒4万6000㌦、大卒6万6000㌦。高卒に対し、短大卒は1・39倍、大卒は2倍にもなる。
一方、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(20年)によると、日本の短大卒は1・17倍、大卒は1・33倍(男性のみ)。学歴による収入格差は米国のほうがだいぶ大きい。
働きながら学位を取れば、給与が上がる――。そう考えてアマゾンに入社する人が増えると期待しているのだ。それだけ米国の人材争奪戦は激しくなっている。(土方細秩子)