「最上の成果だった」。5月下旬にワシントンで行われた米韓首脳会談後、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は胸を張った。バイデン米大統領との直接会談で北朝鮮問題やコロナ対策、経済など話し合いはスムーズだった。韓国国内でも与野党間で差はあるものの、肯定的な評価が支配的だ。
絶えず日本と比較する韓国メディアは、「4月の日米首脳会談より上出来」と自画自賛した。例えば、日米はマスクなしで、韓国とはマスクを取った。あるいは昼食は日本がハンバーガーで韓国はより高級なケーキだったとか。日本より韓国重視の姿勢が垣間見えたということらしい。
米国側の〝厚遇〟は、それなりに理由がある。一つは、韓国企業による4兆円の対米投資だ。半導体関連などの巨大投資は、世界的な半導体不足に呼応する上でも、米国側は素直に喜んでいる。
さらには、同盟関係を重視するバイデン政権が、トランプ前政権で揺れた米韓関係の再構築を優先している。裏返せば、「米国側の東アジア政策において、韓国との関係をどうするかという具体策がまだない」(ワシントンの韓国政府関係者)。
中国を意識するバイデン政権は、同盟関係強化というマクロ的な目標達成のために、まずは韓国を困らせたくなかった。すなわち、必要以上に中国側を刺激するような共同声明にしなかった。これは韓国側も安堵(あんど)したはずだ。
しかし今後、バイデン政権の対中包囲網、ひいては日本も加えた東アジア政策が具体化していくと、韓国は難しい立場に追いやられる。韓国経済は対中依存が強く、地政学的にも中国との関係は、微妙な立ち位置を迫られる。それゆえに、韓国の指導者は「中立」と言いがちだ。そんな姿勢が、同盟を強く意識する米国に通じるか。任期残り1年の文大統領には、北朝鮮政策を中心に、最後の最後まで綱渡りの外交が迫られることになるだろう。
(浅川新介)