JR西日本は10月30日、「三ノ宮駅ビル(神戸市中央区)の建て替え計画を白紙に戻す」と明らかにした。長谷川一明社長は記者会見で「従来の考え方では駅ビルを造れない。業種、業態を含めてゼロから考え直す」とした。
業績の急激な悪化が背景にある。2021年3月期の中間連結決算は売上高が前年同期比48・8%減、最終損益は1281億円の赤字を計上した。通期は2400億円の巨額赤字を見込んでいる。コロナ禍で通勤や観光が滞り、鉄道事業の乗客だけでなくホテル事業の宿泊客も減ったためだ。大規模な再開発事業に手を出す余裕はなくなった。
JR西日本は18年4月に発表した中期経営計画で、23年以降に三ノ宮駅ビルを建て替え、大阪駅と広島駅の再開発計画と並ぶ3大プロジェクトに位置づけた。
10月30日の発表では、中期経営計画を全面的に見直した。長谷川氏は「神戸の中心地の再開発は重要で、3大プロジェクトの一つに変わりはない」としたものの、説明資料から三ノ宮駅ビルの記載は消えた。
同ビルは1981年に三宮ターミナルビルとして開業。ホテルなどが入居していたが、耐震性能の不足を理由に2018年に閉館した。現在、解体中だ。建て替え計画が宙に浮いたことで、神戸市の超一等地に更地が広がることになる。
一方、神戸市は今年度に予定していた都市経営計画の決定を来年度に遅らせることを9月に明らかにしている。JRのビルは計画の中心的な存在だった。
同市は阪神・淡路大震災の後、長田区などで被災者の生活支援をそっちのけで進めた大規模開発を批判されたため、現在は「再開発」の表現を避け「再整備」と呼称している。
だが言葉でごまかす前に、大規模再開発が本当に必要なのか見直すべきだ。
(粟野仁雄)