編集長後記
東京都足立区で呉服店を営む平澤建二さんは今年、ネットで動画を配信した。和服姿で車椅子に座り、カメラに向かって話したテーマは「東京大空襲」だ。
1945年3月10日の米軍による大空襲で、東京の下町は壊滅状態になった。平澤さんは当時10歳。店舗兼住宅は難を逃れたが、母親から「死ナバ諸共(モロトモ)ヨ」と言われ、きょうだいの手首を、さらしでつないだ体験を明かす。「遺体が並んでいた橋の名は、今でもなかなか口にできない」とも言う。
軍人らと異なり、空襲の犠牲者らへの国の救済は進んでいない。「戦争被害者は77年も置き去りにされている」。87歳のユーチューバーの訴えは重い。
(坂巻士朗)