対談詳細

艶もたけなわ
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髙樹のぶ子 作家

2020年8月 9日号

阿木燿子の艶もたけなわ/312

 数々の恋愛小説をはじめ、登場人物の心の機微を丹念にすくいとる作風でファンの多い髙樹さん。最新作の題材は、なんと古典『伊勢物語』でした。主人公の歌聖・在原業平(ありわらのなりひら)への思いがこめられた小説世界には、阿木さんもどっぷりのめりこんだようです。年齢を重ねてたどりついた、心境の変化のお話にも注目です。

 ◇今の私は、「第3期」の出発点だと思っているんですよ。

 ◇『業平』ではどんなところを一番表現したいと思われたの?

 ◇業平は恋多き男と同時に、素晴らしい歌人。それをきちんと描きたかったんです。

髙樹 今日は〝生阿木燿子さん〟と御一緒で。

阿木 私の方こそ〝生髙樹のぶ子さん〟とお目にかかれて嬉(うれ)しいです。今日はよろしくお願いします。

髙樹 こちらこそ。

阿木 私、髙樹さんの新刊『小説伊勢物語 業平』を拝読して、ショックを受けました。70代になって、こんな瑞々(みずみず)しくも色っぽい小説をお書きになるのかと。

髙樹 私、70歳を過ぎてから、古典をやろうと思うようになったんです。ほら、普通の恋愛ものだと、この年になると、リアリティーに欠けますでしょう。でも1100年前の在原業平の世界ですからね。なので思い切って「艶たけなわ」という感じでいこうかと(笑)。

阿木 文体がもの凄(すご)くときめいていて、読み進めていくうちに、髙樹さんがいかに業平に恋をしていたかが、伝わってきました。

髙樹 今は生身の男性は十分という感じですが、業平さんとだけはまだ続いております(笑)。

阿木 元々、好みのタイプでは?

髙樹 この方は......。なんて、まるで身近な人みたいな言い方ですけど、業平はタイプの違う様々(さまざま)な女性に出会っても、それなりの対応をするんです。女性経験がない時には、年上の女性から共寝(ともね)も含めて恋の手ほどきを受ける。そして、自分が大人になってからは、あらゆるバリエーションの恋を経験しているんです。

阿木 男性の好みで言うと、髙樹さんは真面目なタイプより、危うい感じの男性なのかなと(笑)。

髙樹 どちらかと言うと、私自身が業平なので(笑)。

阿木 えっ、そうなんですか(笑)。

髙樹 私、母性が強くて、ピュアな若い男性を見ると、良い男になって欲しいと願うタイプなので、最初に業平に手ほどきをした年上の西の京の女が一番近いかなと。

阿木 あらっ、でも雑誌のインタビューでは、業平と駆け落ちをした藤原高子(ふじわらのたかいこ)さんが自分に重なる、みたいなことを仰(おっしゃ)ってましたが。

髙樹 それもありますね。何しろ高子さんは強い女性ですからね。

阿木 やっぱり気が多い(笑)。でも確かに彼女、芯が通っていて格好良い。

髙樹 女性だけどハンサム。私も阿木さんもそうだと思うけど、自分の中が〝両性具有〟でないと、創作活動はできない。歌を詠むって、そういうことだと思うんです。

阿木 私は作詞だけですが、髙樹さんは本を書く過程で、いわば作詞も作曲もしなければいけない。

髙樹 なので文章の音律やリズムには気を付けましたね。読んで下さって、どうでしたか?

阿木 〝さらわれる〟という言葉が適切かどうか分からないんですが、最初は恐々(こわごわ)、足を一歩ずつ海に浸してゆくんですが、そのうち波にさらわれて、気が付いたら遥(はる)か彼方の岸に着いていた、という感じでしょうか。

髙樹 全体として、揺られている感じ?

阿木 そうですね。きっとリズムが心地好(よ)かったんでしょうね。それと最後に見えた景色が美しかった。この小説は登場人物がみんな、人間的に成長するお話ですよね。

髙樹 業平は高貴な生まれでありながら、権力闘争とは無縁なところに居つつ、最終的には歌の才能でそれなりの地位に上がってゆく。

阿木 なのでこれは単なる男女のお話ではない。詩歌の世界が男性的な漢詩から、たおやかな仮名に移る歴史的な背景なども垣間見られて、そこも凄く興味深かった。

髙樹 業平が愛した高子さんは、最終的には陽成天皇の母となり、サロンの女王的な存在として、『古今和歌集』の選者達を育てたんです。

阿木 だから業平との関係も、最後は惚(ほ)れたはれたから大きく脱却し、お互いに最高の理解者となり、リスペクトし合う関係になった。私、そこが素敵(すてき)だなと思って。男と女の最終の着地点が、高め合うところまで行けたら、それこそが理想形じゃないかなと。

髙樹 そこを読み取って下さって、嬉しいです。でも、それって作詞家の阿木さんだからこその視点かもしれませんね。

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