対談詳細

艶もたけなわ
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サンキュータツオ 漫才師・言語学者・大学講師

2020年7月 5日号

阿木燿子の艶もたけなわ/307

 寄席を中心に活躍する現役の芸人にして、大学で教壇に立つ学者。本も書けば、ラジオでは熱いサブカルトーク。八面六臂(ろっぴ)の活躍を見せるサンキュータツオさん、その原点は少年時代に抱いた一つの疑問でした。「知る」ことや「考える」ことは楽しみであり、一種の危機管理でもあるというお話には目からウロコです。

 ◇自分が問題意識を持てば、なんだって研究対象になるんです。

 ◇タツオさんの書庫には『広辞苑』がどれくらい所蔵されているのですか?

 ◇初版から最新版まで、すべて揃ってます。

阿木 サンキュータツオさんはれっきとした日本語学の学者さんでいながら、「米粒写経」という漫才コンビを組んでいらっしゃる。私、御著書の『ヘンな論文』と続編の『もっとヘンな論文』を読ませて頂いて、ぶっ飛びました。世の中には、一般の方が書いた論文を、こんなに真面目に読む人が居るんだって。

タツオ 僕は論文を読むのが、趣味なもので。

阿木 タツオさんは論文の作者に優しいですね。行間から愛がひしひしと伝わってきます。

タツオ みなさんを尊敬してますからね。僕だったら、こんなに時間をかけて書けないなと思うので。

阿木 私は同じことをタツオさんに感じました。これほど丁寧に、人が書いた論文を読めない。

タツオ それ、僕自身でも思います。「僕が読まなかったら、誰が読むんだろう」って(笑)。

阿木 タツオさんが御著書に載せられた論文は、どれもテーマがユニークですよね。例えば『もっとヘンな論文』のトップは「プロ野球選手と結婚する方法」。普通、この手のテーマを論文には選ばないでしょう? 憧れとして胸に仕舞っていても、これを学術的に検証しようという気にはならない。

タツオ これは明治学院大の学生さんの卒論ですが、立派な出来栄えで、よくここまでまとめたなと思います。

阿木 確かにこの論文を20年、30年後に読めば、この当時の女性の結婚観や価値観が分かりますよね。

タツオ 女性達が漠然と思っていることを、自分自身に落とし込んで、きちんとデータを取って検証してますからね。

阿木 他にも女性の視点で書かれたもので、「女子高校生と男子の目」という論文も面白かったです。

タツオ あー、あれはかつて女子高校生だった女性の手によるものですが、自分の在籍中は女子校だったのに、妹が通う頃には共学になった。妹を見ていたら、チャラチャラしていて腹が立った。それが論文を書くきっかけになったみたいです(笑)。

阿木 女子校に男子が入ってくると、女子達は急に髪をカールさせたり、ロングヘアが増えたり。

タツオ そうそう、それに対してお姉さんが腹を立てているのが、面白い。これだって、立派なジェンダー研究ですよね。

阿木 女子校が共学化すると、偏差値が落ちて、逆だと偏差値が高くなる。私、へえー、と思って(笑)。

タツオ 全国的にそういう傾向はあるみたいですね。

阿木 でも、この本を拝読して思ったのは、論文を書くのって決して難しいことではなく、身近なものをテーマに選んでも成立するんだなと。子育てについてでも良いし、パートナーとの関係でも良いし。

タツオ 本当にそういうことなんです。自分が問題意識を持てば、なんでも研究対象になる。

阿木 タツオさんは今まで沢山(たくさん)の論文を書かれたと思うんですが、生涯の御自身のテーマって?

タツオ 基本的には、僕の専門である言語学ですね。「笑わせるテキスト」は有るのか。有ったとしたらどういう構造になっているのかが、僕の主たるテーマです。

阿木 タツオさんは子供の頃、テレビのお笑い番組を観(み)ていても、笑わずにじっと御覧になっていたとか?

タツオ 手品とかマジックを見るのと、一緒ですかね。

阿木 どこに仕掛けがあるか、探してやろうみたいな?

タツオ 僕、お笑いとマジックの差がよく分からなかったんです。

阿木 えっ、そうなんですか? ちょっと変な子(笑)。

タツオ 他人の心を動かす不思議なことが起こっているという意味で、両者共通の〝何か〟が絶対にあるはずだ、と思ったんです。

阿木 その共通点を知りたくて、実際に寄席に上がり、漫才をなさっていらっしゃる。そこが普通じゃない(笑)。でも、お笑いの活動自体が、立派なフィールドワークですよね。

タツオ まさにそうです。研究というのは、フィールドワークの裏付けがないと意味がないので、昼は研究、夜はお笑いのライブ、みたいな感じでやってます。

阿木 ステージでスベって、お客様が笑ってくれなかったとしても、それも研究の対象?

タツオ そうですね。ひとつのネタを10日間、同じ寄席でやっても日々、ウケ方が違いますので。その差はどこから来るのか、興味深いところですよね。

阿木 人間の笑いには、一定の法則があるのでしょうか?

タツオ 誰にでも必ず適用できるものはないですね。まず表現者の持っている身体性やパーソナリティーというのも大きいですし。太った人が言うと面白いことも、標準的な体形の人が言うと、面白くならなかったりとか。

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