対談詳細

艶もたけなわ
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わたせせいぞう 漫画家・イラストレーター

2018年12月16日号

阿木燿子の艶もたけなわ/231 

 都会的な男女のショートストーリーを透明感のあるイラストで描くことで知られるわたせせいぞうさん。近著『あの頃ボクらは若かった』(毎日新聞出版)でも"わたせワールド"は健在。わたせさんは、損保会社のサラリーマンと漫画家の二足の草鞋(わらじ)を16年続けていました。そんなわたせさんの足跡に同世代の阿木さんが鋭く迫りました。  

◇イラストや漫画を描く時、音楽に負けないものをって、常に意識しています。  

◇若い人といえば、わたせさんは神奈川大学で教えていらっしゃったんですよね。  

◇生徒はみんな真面目で優秀だったんですが、男子は恋愛には消極的な学生が多かった。

阿木 わたせさんとは私、「初めまして」ですけど、いきなりですが、ご自身の描かれる絵に似ていらっしゃいますね。

わたせ どう、お答えしていいものか(笑)。

阿木 こんなことを申し上げて何ですが、凄(すご)く小顔でいらっしゃる。男性って、中年以降は顔が大きくなる方が多いのに。

わたせ 本当に、何てお答えしてよいものか(笑)。

阿木 再度、失礼しました(笑)。私、わたせさんと同じ年の生まれなんです。で、初対面なのに、勝手に親近感を持たせて頂いていて。

わたせ それは、どうも。

阿木 今年の夏にわたせさんが上梓(じょうし)なさった単行本『あの頃ボクらは若かった』のページをめくっていたら、「あー、こういうことがあったな」と思い出して、本当に懐かしかったです。

わたせ 僕達は同じ時代の空気を吸っていたわけですね。

阿木 この本の前半で描かれるのは1964~79年。ということは日本が一番、元気な頃ですよね。ちょうど、私達が大人になって、就職をして、社会人としてようやく仕事を覚えたあたり。わたせさんのスタートはサラリーマン。あの当時、まぁ、今でもですけど、一流企業に入るのって、大変なことでしたよね。成績が優秀な人じゃないと入れない。

わたせ 当時は学校推薦の枠があって、ちょうど、あの時人気だった損保会社に、たまたま入れたんです。でも僕自身は本当は、新聞社に行きたかったんです。

阿木 わたせさんは早稲田大学ですよね。早稲田の人って、新聞社志望の人が多くなかったですか?他校より、ジャーナリスト志向のイメージがありますが?

わたせ 確かにそれは言えるかもしれませんね。現に僕も、自分の書いた記事が紙面に載ったらいいだろうな、などと内実をよく知りもしないで、新聞記者に憧れていましたからね。

阿木 大学時代から、何か書かれていたんですか?

わたせ 小説を書いていたんです。でも、これって不幸な物語だと思うんです。僕が受けた損保会社の2次試験は面接だったんです。その時間が延びてしまい、新聞社の2次試験と重なってしまったんです。

阿木 それは、また悩ましいことに(笑)。

わたせ 本当に(笑)。損保会社の面接は銀座7丁目、新聞社の2次試験は池袋で、地下鉄の丸ノ内線一本で行けるんです。なので損保会社が午前中で終わってくれれば、午後の試験に間に合ったのに、僕の3人前くらいで「午後にしてください」って。それで、さぁ、どうするかと。

阿木 人生の岐路ですね。

わたせ 本当にそうでした。ここで弁当を食って面接を受けるか、地下鉄に乗って池袋へ行くか。結局その時、動かずを選んだんです。慌てて飛んで行ってもロクなことはないだろうって。なので、損保会社に入っても本当にこれで良かったのか、という思いをずっと引き摺(ず)っていましたね。

阿木 思いって、心の中で燻(くすぶ)りますよね。いつまでも種火が残っている感じで。

わたせ 就職して2~3年経(た)った頃でしょうか。たまたま直木賞作家の永井路子(注1)さんとお目にかかるチャンスがあったんです。本当は自分が書いた小説を持って行きたかったんですが、永井さんのお時間があまり無いということだったので、漫画を描いてお見せしたんです。そしたら永井さんが「あなた、漫画家になりたいのね」とおっしゃって。その時、「あー、そうか、そういう道もあるんだな」と思ったんです。

阿木 その時も二者選択というか、小説か漫画かの、どちらかを選択しなくてはいけなかった。

わたせ そうなんです。漫画は好きだったんですが、その時まで、まさか僕が漫画家になれるとは思ってもみなくて。

阿木 永井さんに背中を押された感じですね。主人(宇崎竜童氏)もそうですけど、私達の世代って、学生時代に好きなことをやってもそれはそれ、趣味の世界で、いざ就職する段階になると、より現実的になり、将来性とかを考えて、寄らば大樹の陰で、大企業を目指す学生が多かったでしょう?

わたせ そういう風潮はありましたね。

阿木 わたせさんが入られたのは同和火災海上保険(注2)という一流企業。ということは、成績が優秀でいらっしゃった。

わたせ いえ、そんなこと。普通だと思います。

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