対談詳細

艶もたけなわ
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藻谷浩介 日本総合研究所主席研究員

2018年7月 8日号

阿木燿子の艶もたけなわ/209 

 日本経済の長期的な停滞について、『デフレの正体』で現役世代の減少だと指摘し、話題となった藻谷浩介さん。エコノミストとして活躍しながら、国内外の現場を歩き、地域振興や人口問題について研究を続けてきました。その藻谷さんが、本当は私たちが知らない「真のニッポンの姿」を明らかに。目からウロコの"藻谷講座"、お楽しみに!

 ◇子供の頃から雑学王でした。現場の地理には専門家以上に詳しいですよ。  

 ◇一極集中で東京に人が集まり過ぎて、地方に元気がないと言われて久しいですよね。  

 ◇「数字読まない」「現場見ない」の典型で、今危ないのは首都圏の方でしょう。

阿木 藻谷(もたに)ってお名前、珍しくないですか?

藻谷 「藻のはえた谷」なんてどこにでもあるわけですが、木谷とか草谷とか苔谷に比べても、藻は名字向きではないですよね。

阿木 でも名刺交換の際には、覚えてもらいやすそうで(笑)。今年、出されたご著書『世界まちかど地政学(注1)』を拝読すると、本当に博学というか。政治、経済、歴史、守備範囲がとても広くいらっしゃる。

藻谷 子供の頃から雑学王でした。雑学止まりで、専門家にはなれませんが。でも、現場の地理には専門家以上に詳しいですよ。

阿木 ご本のタイトルの"地政学"って言葉に私、あまり馴染(なじ)みがないんですが。

藻谷 普通は軍事用語ですからね。ですが地政学とは本当は、軍事の話ではありません。「天の時・地の利・人の和」の中の「地の利」が、政治や経済にどう影響するか観察することです。歴史を見ると同じ場所で、違う時代に違う登場人物が、同じようなことを繰り返す傾向がある。地理条件がそうさせるのです。そういう構造を踏まえれば、未来が読め、対策も打てます。

阿木 藻谷さんの凄(すご)いところは、それが机上の知識ではなく、実際ご自分で現地に行かれて、経験なさっていることですよね。

藻谷 現地に行けば分かるというものでもないのですが、書かれたものを読むだけではさらにわからない。表面的な姿の裏にある地理条件は、どうしても見過ごされがちで、字に書かれないのです。

阿木 言い換えれば、同じ条件下では、同じ構造が生まれやすい。

藻谷 そうなんです。ですが最近、構造という言葉は、あまり流行(はや)らないらしくて。

阿木 そうですか? でも社会の構造とかいう使い方をすると、問題点が見えやすい気がしますが。

藻谷 阿木さんのような言葉のプロが"構造は大事"と言ってくださると、嬉(うれ)しくなります。硬い言葉のようですが、構造の把握には、理屈以上に感性が大事ですよね。昔、レオナルド・ダ・ヴィンチは、貴婦人を見ながら骨格の特徴を感じ取っていたという話がありますが、彼はまさに感性の達人です。

阿木 ダ・ヴィンチの人体の解剖図はあまりに有名ですが、それを基に、彼は素晴らしい芸術作品を沢山(たくさん)残していますよね。

藻谷 私も乏しい感性を動員すべく、事前に予習せずいきなり現地に行って、その場の空気に浸りながら、そこで起きていること、その背景にあることを考えます。

阿木 まさに藻谷さんのおっしゃるところの"犬棒能力"(笑)。犬も歩けば棒に当たる、ってやつですね。藻谷さんは小さい頃から地理がお好きで、小学校4年生の頃にはすでに、日本の全市の名前と人口を暗記なさっていたとか。

藻谷 おかげで、どこが栄えどこが衰えたのか、過去40年間の現実がわかります。それがまた「世間の常識」とはまるで逆。たとえば大工場ができても、新幹線が通っても、5年もすれば人口も観光客も前より減るのが普通です。でも皆さん、現場の現実には無関心。そういったフラストレーションを積み上げて総論にした本が、おかげさまでベストセラーになり、経済評論家であるかのようにも思われたのですが、僕のベースは現場の地理から考えることです。

阿木 2010年に出された『デフレの正体(注2)』ですね。日本の少子化や高齢化の問題点について、独自の見解を述べていらっしゃって、各方面から"目から鱗"の書と言われてますが。

藻谷 いやー、経済学界からはほぼ無視され、いわゆるリフレ論者には酷評されました。その後の現実は申した通りに展開しているので、少しご反省頂ければと(笑)。

阿木 鱗が落ち過ぎたんでしょうか(笑)。

藻谷 ところで阿木さんがお書きになった曲で「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」というのがありますよね。この短いフレーズの中に、隣同士の港町の違いというものを、見事に込めておられます。

阿木 横浜、横須賀は同じ港町ですが、匂いの質が違う感じですね。

藻谷 浜と須賀という語感に、それがちゃんと出ていて、真似(まね)できない。僕にできるのは、その差は何なのか、これからどう変わっていくのか、現地に立って考えることくらい。何度行っても面白い。

阿木 当然、時代は移り変わるので、10年前に行かれた時に立てられた予想がその通りになったり、思いもかけない展開だったり。

藻谷 そうなんです。予想した通りに展開しないところが面白いんです。今の世の中、「俺の考えは間違っていない」という人が、永田町からネットにまで増殖しているじゃないですか。妙な総論に染まって思考が止まり、複雑多様な現実から学べなくなったのでしょう。「ああ、間違えていた」と、新鮮な驚きを覚えるようでなければ、その人の進歩は止まります。

阿木 日本は島国なので、ともすると井の中の蛙(かわず)になりがちですが、四方を海に囲まれた国って、他にもありますか?

藻谷 大きな国では例外的です。江戸時代までの日本は、世界のデッドエンドだったんです。もうその先がない、どんづまり。三国志の頃の中国では、気候変動と戦乱で大幅に人口が減ったのですが、どうもその頃に大勢が日本まで逃げて来て、こっちの人口は増え始め、邪馬台国なんかが文献上に現れた。7世紀にも百済(くだら)の遺民が日本に移住している。ですが日本の戦乱や大飢饉(ききん)で、大勢が海外に逃げ出したという話は聞かない。

阿木 そうお聞きすると、日本って"日出(い)ずる国"というよりも、"最果ての国"のイメージですね。やはり四方を海に囲まれていることが、影響しているんですか?

藻谷 黒潮に乗るとその先に陸地がなく、海の藻谷、ではなく藻屑(くず)になってしまう。誰も帰ってこないので、出ていく人もいなくなる。

阿木 でも、今は人も情報も即座に行き交う時代ですよね。中国の脅威もあるし、北方領土問題を抱えているロシアもあるし、日本のような小さな国が、どうやったら存続できるか不安になりますが。

藻谷 講演会でもそういう質問をよく受けるのですが、日本人はそもそも自国の地理をよく知らない。日本は人口でも経済でも、歴史上常に大国です。超大国の米国や中国とだけ比べるから感覚が狂いますが、欧州にあれば最大です。

阿木 私達の若い頃は、日本は経済大国だというプライドがありましたけど、今の若い人達って、日本を大国だとは思ってないんじゃないかしら?
藻谷 昨年の日本の輸出額は、バブル期のほぼ2倍です。アメリカからは12兆円、中国+(プラス)香港からは5兆円の経常黒字を稼ぎました。別にアベノミクスの成果ではなくて、民主党政権時代も似たような数字でした。でも、そんな話、お聞きになったことないでしょう。経済評論家を含め、KY・SY・GMなんです。空気読めないではなくて、「空気しか読まない(KY)」「数字を読まない(SY)」「現場を見ない(GM)」。『デフレの正体』に書いた当時と何も変わってない。そもそもGDP(国内総生産)が世界3位で小国なら、他の国は何なのか。中国に抜かれたと騒ぎましたが、あちらは人口が10倍居るんです。抜かれない方がおかしい。

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