対談詳細

艶もたけなわ
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西舘好子 日本子守唄協会理事長

2018年4月15日号

阿木燿子の艶もたけなわ/198 

 作家の故・井上ひさしさんの妻で、劇団こまつ座の座長兼プロデューサーだった西舘好子さん。30年前の離婚劇は世間を騒然とさせました。
その後、日本子守唄協会を設立し、活動を続けています。今年、当時を振り返った『家族戦争 うちよりひどい家はない!?』を出版。一般家庭とは一味も二味も違う"井上家"の実態をたっぷり語っていただきました。

 ◇面白いのは、井上さんが私の恋の一番の理解者であり、奨励者だったんです。  

◇日本全国に埋もれている子守唄を発掘しては、採譜なさっていらっしゃいますよね。  

◇子守唄は日本の財産ですからね。知床から与那国まで、現地に足を運んで集めました。

阿木 今日のお着物のコーディネート、素敵(すてき)ですね。とくに半襟が粋で。

西舘 母が替え襟を沢山(たくさん)作っておいてくれたので、着物に合わせて楽しんでるんです。

阿木 その着方、江戸前で?

西舘 いえ、男着っていうんですって。きっちり襟を合わせずに、縦に着るんです。

阿木 チラリと胸元が見えそうで、とても色っぽいです(笑)。

西舘 楽チンなんです。これだと一日中着てられる。でも、ちょっと変でしょう?

阿木 いえ、そんな。以前、西舘さんから主人(宇崎竜童氏)が頂いた半纏(はんてん)を、私が毎日着ているんです。それも胸に掛けるような感じで。私、寝相が悪くて朝起きると、ほとんど掛け布団を掛けていないんです。それでハタと思い付いて、後ろ前にして半纏を着て寝てみたらって。そうしたら肩が冷えなくて、とても重宝しています。

西舘 あらッ、そうでしたか。私、あれを宇崎さんに差し上げる時、周りに「お召しになるかしら」と聞いたらみんな、「着ませんよ、宇崎さんはガウンですよ」と言ってたんですけど、だったら良かった(笑)。

阿木 主人の物は私の物、私の物は主人の物で(笑)。

西舘 お二人、本当に仲が良くて。宇崎さんとお食事をさせて頂いても、阿木さんの話題が頻繁に出てきますし。そういえば、大分以前に、阿木さんは元夫の井上ひさしさんと会ってますよね。

阿木 一度、対談させて頂きました。

西舘 あの時、井上さんは嬉(うれ)しそうに帰ってきて「思ったとおりの女性だった」って言ってました。

阿木 今でも私、井上さんが対談の席上でおっしゃったことを覚えているんです。「あなたの詞の中には"言葉"という単語が多く入っていますが、言葉にとてもこだわりがお有りなんですね」って。

西舘 作詞家だもの、当たり前じゃないですか、ねーえ?(笑)。

阿木 私、それまで"言葉"という言葉を多用していたことに気が付かなくて、確かにそういえば、と納得しました。でも思えば井上さんこそ、言葉に対するこだわりが強い方ですよね。小説しかり、戯曲しかり。

西舘 一頃、言葉の魔術師なんて言われてましたからね。でも、それって、私と一緒になったことが多少なりとも関係していたと自負しているんですけど。私、浅草なので言葉が乱暴なの。井上さんと話をしていると、喧嘩(けんか)を売ってるみたいだって。

阿木 きっと、テンポ感なんでしょうね。江戸っ子って、ポンポンポンって、たたみかけるように喋(しゃべ)るでしょう?

西舘 それとあとは語感ね。井上さんと私とでは言葉に対する感性がまったく違うの。喧嘩になると、「あなたは黙って、机にしがみついていればいいの」なんて言ってしまうんですけど、"しがみつく"という言葉の意味から始まるの。「しがみつくとは汚いものがへばりつくということで、そこから動かないこととは違います」とか。

阿木 正しい日本語ならそうなんでしょうけど、そこをあまり突かれてもね(笑)。

西舘 そう、だから時々、「お黙り、ひさし」とか言っちゃうわけ(笑)。

阿木 えっ、「お黙り」ですか? それはちょっと。英語だと「shut up」に近いですよね。やはり浅草の血が、そう言わせる?

西舘 私が喋っているのは浅草弁なんです。東京じゃない。浅草って、日本中の田舎を代表しているんです。

阿木 浅草には、東京の下町のイメージがありますけど。

西舘 いえ、寺山修司さんなんかもそうだけど、彼が東北から出て来てサーカスを観てびっくりしたように、浅草は東北の人が東京に出て来た時の入り口で、出稼ぎの人達の拠(よ)り所(どころ)的な場所なんです。

阿木 ということは、西舘さんと井上さんとでは、言葉の文化圏が違っていた?

西舘 私達はタクシーに乗ると「そこの交差点を左に折れて」とか言うじゃないですか。でも、井上さんにすると"折れる"とは、"死ぬ"ということなの。

阿木 じゃ、あちらはびっくりなさって(笑)。

西舘 そう「左に曲がって死ぬ」みたいなね(笑)。井上さんが私の家に初めて来た時は、もう目が点でしたね。近所の人が無断で上がり込んで、勝手にお茶菓子を食べているとかね。どうなってるんだ、この家はーって(笑)。

阿木 そもそも最初の出会いから、ユニークですよね。お二人共、寸借詐欺に遭われたのだとか?

西舘 職場の同僚だったんですが、その人が私の腕時計を持っていっちゃったんです。で、「返してください」って言ったら「弟子に返させる」って返事があって、その弟子というのが井上さんだった。

阿木 それが初対面なんて、お芝居で使えそうなシチュエーション(笑)。その時はどんなお話を?

西舘 井上さんが「自分も被害者です」って。相手は同一人物なので「じゃ、力を合わせて取り返しましょう」ってことになって、二人で被害者同盟を作ったんです。それから対策を練るために毎日、会うようになって。

阿木 その面白過ぎる出会いから、すぐご結婚なさったんですよね。

西舘 7日目ぐらいですね。

阿木 被害者同士が1週間で!

西舘 今から考えると、こちらの方が本当の被害でした(笑)。

阿木 でも、西舘さんも初対面で、ピーンと来るものがお有りになったんでしょう?

西舘 当時、越路吹雪さんが凄(すご)い人気で、ある日、井上さんが「大変な話があります」って言うから「なんですか?」と聞いたら、「よーちゃん、猿飛佐助は実は女だったんですよ。それを越路さんが演じるというのは、どうですか」って。

阿木 井上さんらしい、奇想天外なアイデア(笑)。

西舘 という話から、被害者同盟の会が始まって(笑)。で、私、すぐ猿飛佐助を調べたんです。そしたら林芙美子が書いてるの。

阿木 『浮雲』を書いた林芙美子が、猿飛佐助をですか?

西舘 そう、短編で。とくに女とは書いてなくて、その本を読む限り、女も有りだよねって。

阿木 じゃ、最初から西舘さんは井上さんのアイデアを、どうやったら実現させられるかの協力者。そういう意味で言ったら、運命的な出会いですよね。

西舘 というか、私の世話焼きおばさん的な部分が刺激されたんだと思うんです。井上さんの手にはひきつれがいっぱいあったんですけど、本人はそれを原爆の後遺症だと言ってたんです。おまけに孤児院育ちで、親兄弟も居なくて、西も東も分からない東京で途方に暮れている。何とか力になってあげなきゃ、という感じですよね。

阿木 確か井上さんは山形のご出身ですよね。被爆って?
西舘 嘘(うそ)なの。後から分かったんだけど、手のひきつれは霜焼けだった(笑)。

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