対談詳細

艶もたけなわ
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阿刀田高 作家

2018年4月 1日号

阿木燿子の艶もたけなわ/196 

 日本を代表する作家の一人、阿刀田高さん。かつて、国立国会図書館に勤務しながら小説を書き続け作家デビューした阿刀田さんが6年前、山梨県立図書館の館長に就任。現在も月2回、山梨通いを続けているそうです。そんな阿刀田さんに図書館の役割をはじめ、19年間務めていた直木賞選考委員時代に心掛けていたことなど、盛りだくさんに伺いました。

 ◇図書館が元気ならば、本屋さんも元気という図式に持ってゆくことが大事。  

 ◇阿刀田さんは、戦争をテーマにした作品をあまり書かれてませんよね。  

 ◇嫌いなんでしょうね。戦争も暴力も。意図的じゃなく、根っから嫌いなのかも。

阿木 昨年の冬、阿刀田さんが館長をなさっている図書館に伺った際には、いろいろお世話になりました。

阿刀田 こちらこそ、ありがとう。阿木さんには、山梨県立図書館で講演をして頂いたんですよね。

阿木 その際、阿刀田さんが館内を案内してくださったんですけど、明るくて、とても居心地の良い図書館ですね。阿刀田さんに館長をお願いするなんて、山梨県の県知事さんも目が高い(笑)。

阿刀田 当時の教育長の進言と、横内正明元知事の強いリクエストだとは伺っています。でも、私、山梨とは何の縁もないんですよ。

阿木 お過ごしになった新潟県長岡市なら、まだしもね。

阿刀田 山梨県の学校を出ているわけでもないし、親戚が居るわけじゃないし、疎開したわけでもありませんしね。

阿木 林真理子さんなら分かりますけどね。林さんこそ、山梨県の誇る人気作家でいらっしゃる。

阿刀田 私、縁がないどころか知識もなくて。富士五湖がすべて、山梨だってことも知らなかったんです。一つや二つ、静岡県だろうと思ってました(笑)。

阿木 あらッ、そうじゃないんですか? 富士山が山梨と静岡をまたいでいるから、てっきりそう思いますよね。でも、そうおっしゃりつつ、月に2回、山梨に通っていらっしゃる。

阿刀田 館長として行くと、いろいろ忙しくてね。あまり地元を歩くチャンスもなくて。

阿木 阿刀田さんは作家になられる前は国会図書館で、司書をなさってらっしゃったんですよね。

阿刀田 結構、長く勤めましたね。11年間居ましたから。

阿木 今、出版業界全体が低迷して、本が売れない時代ですよね。書店と図書館って、微妙な関係だと思うんです。そ

んな時期に、小説家である阿刀田さんが図書館の館長に就任なさった意味って、私、大きい気がするんです。だって、阿刀田さんはどちらの事情もよくご存じなわけで。書店も出版社も、本を売って利潤を上げなくてはいけない。もちろん図書館も廃れてはいけない。お引き受けになるに当たって、その辺のバランスをいろいろお考えになったのでは?

阿刀田 それほど真剣に考えたわけではないですが、確かに本に関わる業種はすべて、盛んになってくれないとね。たまに図書館は本屋の敵だ、みたいなシンポジウムがありますけど、近視眼的に見るとそうですが、図書館が元気ならば、本屋さんも元気という図式に持ってゆくことが大事で。本に親しむという習慣が身に着けば、書店で買うことに繋(つな)がりますからね。

阿木 そうですよね、ウィンウィンの道を、模索すべきですよね。

阿刀田 山梨県立図書館は見識の高いことをやっていて、ワンコピー式というのですが、どんなベストセラーも、1冊しか買わないんです。

阿木 例えば、村上春樹さんの新刊が出たなんて場合も?

阿刀田 そうです。どなたの見識かは分かりませんが、利用者からニーズが有るという理由で20冊購入すると、他の本が19冊買えなくなる。その時々のベストセラーは5年、10年たつと書庫の邪魔者になるだけですからね。お読みになりたい方は、どうぞ、本屋でお買いください、と申し上げているんです。

阿木 そんなことを館長自らおっしゃったら、何かと差し障りがありません?

阿刀田 利用者が求めているのに、なぜそれを揃(そろ)えないんだ、という意見は当然あるんですが、それをやってしまうと、図書館はおかしなものになってしまう。でも、それ以前に、図書館として揃えておくべき本があるわけで。希少価値のある本、その地域でしか手に入らない本、学術的に意味のある本、やはりそういう本を大事にすべきで、それが図書館の使命でもあるわけです。

阿木 阿刀田さんが館長になられてから"本を贈る日"を推奨なさったり、いろいろアイデアを出されていらっしゃる。

阿刀田 4月23日のサン・ジョルディの日ですね。日本にはバレンタインデーと同じくらいの時期に入ってきたんですが、チョコレートの方ばかりが注目されて。

阿木 大切な人に本を贈るなんて、素敵(すてき)な習慣ですよね。

阿刀田 おじいちゃん、おばあちゃんが孫に贈るとかね。

阿木 私、ブックエンジェルって言葉が好きなんです。直訳すると"本の天使"ということですけど、その人にその時、必要な本をプレゼントすることを言うらしくて。私も誰かのブックエンジェルになりたくて、私が読んで感動した本を10冊単位で購入して、時々、人に差し上げているんです。今は去年亡くなられた日野原重明先生の『生きていくあなたへ』の単行本をブックエンジェルしています。日本にも、もっと本を贈る習慣があってもいいですよね。

阿刀田 何を贈っていいか分からない人は、自分が良いと思ったものを贈ればいいんですよ。私が子供の頃、おやじが『二宮金次郎の一生』という本を贈ってくれましてね。ほとんど読みませんでしたけど、それでもおやじが私に、勤勉な少年になれよ、という思いでいたであろうことは、伝わりましたからね。

阿木 お仕事柄、阿刀田さんのもとには、いろいろな方から本が贈られてくるのでは?

阿刀田 基本的に、「どうぞ贈らないでください」というのが正直なところです(笑)。もう目も弱くなってきたし、他に読まなくちゃいけないものも沢山(たくさん)あるし。

阿木 同業者だったりすると、何かの会合で、お会いになることもあるでしょう?

阿刀田 はがきを作っておいて、頂いたら即、「大変ありがとうございました。いずれ拝読して感想を述べさせて頂きます」と出すんです。それが1カ月後じゃ駄目で。そうなると少しは、中身について書かなくちゃいけなくなる(笑)。

阿木 良いことをお聞きしました。それ、いい手ですね(笑)。

阿刀田 中には贈呈とかサインとか書いてくださる方がいて、ましてや、こちらの名前まであったりすると、いざ古本屋に売る時は、どうするんだってことになる(笑)。ただ私は積読(つんどく)というのも読書のうちだとは思ってるんです。あの人がこういう本を書いて、こういうタイトルを付けたんだな、ということを知るだけでも、その人のその時の状況を感じることができる。

阿木 お子さんの頃に、阿刀田さんはお父様の本棚から落語全集を見つけて読破なさったとか? 私、それが後々のお書きになるものに、大きな影響を与えたんじゃないかと思うんです。何しろ阿刀田さんは短編の名手でいらっしゃる。

阿刀田 父も本が好きな人で、かなりの蔵書があったんですけど、子供の私が読めそうなものは『落語全集』ぐらいでしたから、暇があればそれを熟読していましたね。

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