対談詳細

艶もたけなわ
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カルマ・ウラ ブータン王立研究所所長

2017年5月 7日号

阿木燿子の艶もたけなわ 152

 国内総生産(GDP)とは異なる「国民総幸福量(GNH)」という概念があります。その"幸福度"で、今や「世界で最も幸せな国」と呼ばれるのが、アジアのブータン。ブータンでGNH調査の専門家であるブータン王立研究所のカルマ・ウラ所長が来日。ブータンとその国民性に興味津々の阿木さん。さまざまな角度からブータンに迫ります。

  •  ◇大切なのは、自分という唯一無二の存在を自覚し、それに感謝をすること。
  •  ◇ブータンは女系家族で、結婚する時に、男性が婿に入るというのは本当ですか?
  •  ◇都会ではいろいろな形が生まれてきています。ただ田舎では、その習慣が残っています。

阿木 ブータンといえば、私たち日本人にとって、2011年の東日本大震災に国王ご夫妻が被災地を訪ねてくださり、直接、被災された方々を励ましてくださったことが、とても印象的です。お二人は、お元気でいらっしゃいますか?
カルマ 元気にしておられます。大きな出来事としては、赤ちゃんがお生まれになったことです。
阿木 お子さんは、どちらだったんですか?
カルマ 王子です。
阿木 日本では天皇制があって、男の子の誕生は世継ぎの関係上、とても大きな意味があります。
カルマ ブータンにとっても、世継ぎは男子のほうが好ましいということはあります。
阿木 王位継承はやはり男子?
カルマ そうです。しかも長男ということになっています。
阿木 その辺も日本との共通点ですね。ところで最近、日本のマスコミでよく取り上げられる「国民総幸福量(GNH(注))」ですが、先代の第4代国王のご発案だったとか? なぜ、国王自らこういうことをお考えになったんでしょう。
カルマ 国王は国民に対して、ハピネスということを忘れてほしくないと思っておられるからです。ブータンもこれから開発の波が押し寄せ、大きな変化が訪れるでしょうから、なおさら人としての根本的な問題、幸せであるかどうかの観点が大事だとお考えなのです。
阿木 第4代の国王は、とても名君と伺っていますが。
カルマ 先代国王は30年以上その座に就いておられました。この間、ブータンにとって、本当にいろいろなことがありました。国王自らのご意志で王制から立憲君主制に移行しましたが、国王は一貫して、国民の幸福というものを重要視していらっしゃいます。
阿木 カルマさんはそういった国王のご意志に則して、GNHの調査を具体化なさったんですよね。
カルマ そうです。ただし、準備にかなり時間がかかりました。コンピューターの導入、インターネットの接続と、実際に調査にとりかかれたのは06年からです。
阿木 調査は、どのくらいの人を対象にしているのですか?
カルマ 国民の1%、約8000人です。
阿木 GNHの調査アンケートの内容はいくつかの項目に分かれていますよね。幸福感、健康、教育、文化、コミュニティー、政治とありますが、私たちから見ると、ブータンは仏教国のイメージが強いのですが、宗教には触れていませんね。
カルマ はい、仏教徒以外にもヒンズー教徒が約20%いることもあり、宗教色はあまり出さないようにしています。
阿木 人が充足感や幸福感を得るのに、「足るを知る」という感覚が必要だと思うんです。あれが欲しい、これが欲しいと思うと不満ばかりが積もり、なかなか幸せになれません。でも足るを知る心が育てば、幸福感が上がるのではないかと。それって、かなり宗教的な心だと思うのですが。
カルマ 確かに、仏教にはそういった教えが含まれています。なので、実践している人たちは大勢います。人はそれが何であれ、何かを信じて生きてゆく存在なのではないかと思います。自分が死んだ後の「生」についても、同じですよね。
阿木 輪廻(りんね)を信じるか信じないかは、その人の生き方を大きく左右しますよね。今の生を一代限りだとすると、何をしてもいい。でも、次の世があるとすれば、やはり善行を積んであの世に移行しなければと思う。その辺の精神構造が、他の国とブータンの方々とでは、ちょっと違う気がするんです。
カルマ 仏教で言う「命の継続性」ですね。ブータンの国民の多くがそのことを信じています。その人の心の持ちようで、来世は犬になってしまうとか、大臣になるだろうとか。また視覚化ということもよく言われます。自分の中に観音様が居るとして、そのイメージを頭の中に描きます。それによって、考え方や行動が影響を受けます。
阿木 ブータンの方がお祈りをする内容は、周囲の幸せとか、世のため人のためにとかが主だと伺ったんですが。日本だと神社仏閣に参拝しても家内安全や、商売繁盛、合格祈願など、自分のことをまず祈りますが。
カルマ ブータンにも、テストに合格したいとか、お金を儲(もう)けたいとかいう人はもちろんいます。それとは別に、どういうふうに祈るかの教育を受けている人たちがいるんです。彼らは、苦しんでいる人達のために祈っています。
阿木 それは僧侶の方ですか?
カルマ 僧侶だけではなく、一般にもそういう人達が沢山(たくさん)います。
阿木 祈りの文化があるって、素晴らしいことですね。
カルマ チベット仏教では、瞑想(めいそう)と祈りは、同じことだとされています。数字はちょっと不確かですが、GNHの調査でも人口の1・1%くらいの人が、一日のうち何かしらの形で瞑想と祈りをしているという結果が出ています。
阿木 それは学校教育から始まっているのですか?
カルマ 1・1%というのは、かなり集中的にやっている人達のことで、それ以外にも日常生活の中でさりげなく祈りを取り入れている人は結構います。学校でも推進していますし、そのためのインフラが整っているんです。僧侶たちが継続的に設けている祈りの場とか、NGOでやっている所があったりします。
阿木 私の勝手な推論なのですが、祈りの習慣と幸福度との間には、密接な因果関係があるのではないかと。祈るという行為が、神に対する感謝の念を湧き上がらせ、人生を肯定的に捉えることができるのではないかと思うんです。いわゆる先進国では祈りが形骸化して、そこに心が入っていきづらい傾向がありますよね。
カルマ 確かに、かつてのブータンは、世間的に成功したいとか、自分のステータスを上げたいとかいうことが、人々の間で重要視されてきませんでした。しかし、今では、メディアの影響で変わってきていると思います。他人との比較が出てきて、競争原理が働くようになっています。でも、ここで大切なのは、自分というものが人と比べようのない、たった一人の存在だということです。唯一無二の存在としての自分を自覚し、それに感謝をすることが、幸せを考える時に重要なことだと思います。
阿木 その言葉は耳が痛いです。日本人は他人と比べながら生きているところがあって、なかなか個というものを確立させられません。人と同じような幸せを望むと、より快適なほう、より利便性の高い暮らしを、ということになり、都会に人が集まってきてしまいます。ブータンでも地方の過疎化が進み、都会に人が集中する傾向があるということですが。

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