対談詳細

艶もたけなわ
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出久根達郎 作家

2016年12月 4日号

阿木燿子の艶もたけなわ  131

 直木賞受賞後も、しばらく"古本屋のおやじ"を続けていたという出久根達郎さん。阿木さんとは、本の話ですっかり意気投合。本の売れない時代を憂え、これからの新しい本のあり方を語ります。そして、本を愛し、本に愛されてきた出久根さんが、最期に読みたい本とは―? 晩秋の夜長に、じっくり「本の話」をお楽しみください。

 ◇紙の本が滅びる時は、人類が滅亡する時だと思っていました。

 ◇作家と古本屋、本に携わる職業とはいえ、書くと売るじゃ、大違い(笑)。

 ◇書き手に回ると責任が生じますから、読んでいるほうが楽しいです(笑)。

阿木 この秋、出久根さんとは共通の友人のお宅でお目にかかって、お食事をご一緒させていただいたのですが、その時のお話がとても面白くて。
出久根 その節は失礼しました。私はめったに改まった感じの席に出向くことがないので、かなりハイテンションになっておりました。
阿木 いえいえ、私のほうこそ、根掘り葉掘り(笑)。あの日は美味(おい)しいお食事とワインと本のお話に酔いしれました(笑)。出久根さんは長年、杉並区で古書店を営んでいらっしゃったんですよね。
出久根 はい。30年ほど、古本屋のおやじをやっておりました。
阿木 私の知らない世界なので、とても興味深くて。古本屋のご主人たちが集まると、どういう会合なのか、周囲は職業が当てられないそうですね。話題は高尚で、インテリジェンスに溢(あふ)れているのに、ジャンパーを着たおじさんばかり(笑)。
出久根 古本屋って、埃(ほこり)だらけになる商売ですからね、背広なんか着てられないんですよ。今でも、神保町界隈(かいわい)の天ぷら屋なんかに入ると、おやじたちが、学者かな、と思うような専門的な話題で熱弁を振るった後に突如、下世話な話に落ちたりしてるはずです。
阿木 話題が多岐にわたるのが、特徴?
出久根 書籍全般を扱いますから、古本屋は何でも知っていなくちゃいけないんです。今でこそ、古書の市場は入札制になっていますが、私が若い頃は、魚河岸と同じように競りが基本でした。ですから、本のタイトルを聞いて、現物を見ただけで、その価値を瞬時に判断して、値をつけなければいけない。例えば、阿木燿子の何々っていう本が出たとしますと、それを聞いた80代と思(おぼ)しきおじいちゃんが即座に、いくら、と声をかけたりする。その人は阿木さんの名前と価値を、きちんと把握しているわけです。
阿木 すごい情報量ですね。
出久根 学術的な知識はもちろん、芸能トピックスみたいなものまで、百科事典並みに知らないと、値段がつけられないのが、古本屋という商売なんです。
阿木 日ごろから、アンテナを張っていないと駄目ってことですね。
出久根 昔から「古本屋 人の目玉で飯を食い」っていう川柳があるんです。人の目玉でというのは、人が読んでくれるから、三度のご飯にありつけるという意味ですけど、もともと自身の情報収集力でも、古本屋は飯を食っているわけです。だから、世の流行を知りたければ、古本屋へ行け、って私は言ってましたね。
阿木 商売柄、世相を映す鏡的な役割があるんですね。
出久根 若い編集者は、古本屋は古い本のことしか知らないと思っているみたいですが、新刊本を扱う本屋より、情報が早かったりします。また政治に関心を寄せる店主も多くて。幕末、京都の古本屋の主人の中には、勤王の志士に通じて牢屋に入れられ、死罪に遭った人物もいたわけです。
阿木 その時々の社会情勢や、世相に敏感で、社会的にも大きな影響を及ぼす存在だったんですね。三島由紀夫が市ケ谷の自衛隊に籠城(ろうじょう)し、自決するかなり以前から、業界では三島の著書を買い集めていたそうで。
出久根 あれは、一種の勘ですね。事件の半年ぐらい前から、市場へ行くと、三島の本の値段が上がっていましたね。あの事件の時、私はまだ古本屋の小僧で、月島のとある店で働いていたんです。で、当日、神保町の市場にいた主人から電話が入ったんです。三島が自衛隊に突入して、自決する直前かな。「三島の本を全部、集めておけ」とだけ言って、慌ただしく電話が切れてしまって。理由を聞かされなかったから、私は一カ所にまとめておけということだなと思って、書棚に三島のコーナーを作ったんです。そうしたら間もなく、近所のおかみさんが「三島の本、ある?」って、血相を変えて飛び込んできたんです。
阿木 おかみさんっていうのが、意外性があって(笑)。
出久根 それも、およそ本なんか読まなそうな、エプロンかけたおかみさん。そんな人がバタバタと三島の本を買っていった。
阿木 すでにニュースを見て、知ってたんでしょうね。
出久根 おそらく。それから、次から次へとお客さんが来て。ああ、主人が言ったように、今日は三島の本が売れるな、と呑気(のんき)に構えていたんです。夕方になって主人が帰ってきて、「三島の本はどうした?」って聞かれたので、「全部、売れました」って答えたら、「バカ、取っておけって言ったじゃないか!」って、すごい見幕(けんまく)で怒られました(笑)。
阿木 ご主人としてみれば、大損をした気分(笑)。
出久根 取っておけば、明日には倍に値上がりするだろうという目論見(もくろみ)で、わざわざ電話をかけてきたのに、私がその日のうちに全部売っちゃった(笑)。
阿木 ご主人が怒るのも、無理ないです(笑)。
出久根 今でも覚えていますが、昭和45(1970)年11月25日、その翌日には本当に、三島の過去の出版物の値段が倍になりました。後に、横浜の新刊の本屋さんと話す機会があったんですが、あの時は新刊本もバカ売れしたから、出版社を回って本をかき集めた、とおっしゃってましたね。今となっては伝説です。あんなこと、もう二度と起きないでしょうね。
阿木 あのー、下世話なことをお尋ねしますが、ノーベル文学賞候補にこのところ毎回、村上春樹さんの名前が挙がりますよね。今から、村上さんの本は、

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