対談詳細

艶もたけなわ
loading...

真山仁 作家

2016年7月 3日号

阿木燿子の艶もたけなわ 連載110

 企業買収を巡る人間ドラマを描いた小説『ハゲタカ』で鮮烈な作家デビューを果たした真山仁さん。その後もエネルギー問題や農業問題、メディアや選挙の裏側、そして「3・11」など、さまざまなテーマを題材にし、上質なエンターテインメント作品を続々と出されています。その真山さんの原点から創作秘話までをお届けします。

  •  ◇死ぬまで「ハゲタカ」は書き続けたいと思っています。
  •  ◇『海は見えるか』は、今までとだいぶ色合いが違いますね。とてもヒューマンなお話で。
  •  ◇デビュー7年目で東日本大震災が起きて、これはもう、今こそ書かなければと。

阿木 真山さんの作品は、ディテールが細かくて、しかもジャンルが多岐にわたっていますよね。『ハゲタカ』は企業買収がテーマだし、『当確師』は地方の首長選挙が舞台。また、『売国』はスパイ小説。一体、どれほどの知識と情報量をお持ちなのかと。
真山 いやいや、空っぽです(笑)。
阿木 そんなはずが(笑)。書く前にかなり調べられるんですか。
真山 もちろん取材はしますし、資料も読み、調査もしますけど、いつも前提としてあるのは素人目線です。だから取材は、相手が驚くほどバカげた質問をしたりします。
阿木 たとえば、どんな?
真山 生命保険会社の人に、「会社には何兆円っておカネがあるんですよね? さぞかし大きな金庫が?」って尋ねたら、あぜんとされました(笑)。おまけに恥の上塗りで「一斉に解約されたり、災害などで日本人の半分が突然、死んだりしたら生保は困りますよね」と続けたら、「そんな想定はしていません。真山さん、本当に大丈夫ですか」って。
阿木 そんな質問、さすがに私でもしません(笑)。
真山 作品を書くにあたって大事なことは、読者の側に立つことだと思っているので、アホな質問も平気でします。それでも、3カ月も取材を続けるとそれなりの知識が身につきます。
阿木 その恩恵なのか、私も『ハゲタカ』を読んでいるうちに、それまでチンプンカンプンだったバルクセール(注1)とかゴールデンパラシュート(注2)とかいった専門用語が、自然に頭の中に入ってくるようになりました。
真山 専門用語を多用すると、読者は何となくわかった気になるんです。そのためには、取材で得た知識を自分の言葉に置き換える必要があるんです。たとえば、金融関係者と会話していて、「バルクセールって、不良債権の福袋みたいなものですね」って言ったら、相手は妙な顔をしていましたけど。
阿木 でも、その表現は一般読者には、わかりやすい。
真山 そこなんです。その道のプロからいろいろな説明を受けても、そのまま書いたら読者には伝わらない。なので、自分の言葉にすることが大事なんです。
阿木 『ハゲタカ』を読んでいて興味深かったのは、真山さんは登場人物を善人・悪人の図式で色分けしていらっしゃらないことです。会社を乗っ取られたとしても、そこに至るまでの経過があるわけで、被害者だけど、違う角度から見ると加害者であったり。その辺がとても面白い視点だなって。
真山 企業買収って、日本人の感覚でいうと非情で悪辣(あくらつ)で酷(ひど)い話、というふうに括(くく)られがちですよね。でも、実際はそんな単純なものじゃない。その企業がダメになったのはハゲタカファンドのせいではなく、同族経営の杜撰(ずさん)さだったり、放漫経営のせいだったりということも大いにあるわけですよね。で、こういうシビアな話を成立させるためにはどうしたらいいか、そう考えていて閃(ひらめ)いたのが「歌舞伎にしよう!」ってことだったんです。
阿木 それって傾(かぶ)くってことですか?
真山 そう。歌舞伎って悪い人がたくさん登場するじゃないですか(笑)。悪人が多いほど、こういう作品は輝くんです。だから、登場人物全員を悪い人にしてしまおうと。
阿木 それぞれが欲望のままに生きて、自分なりの正義を持っているんですね。
真山 そうです、それぞれの正義がぶつかり合うんです。最後まで自分の正義を貫いた人が生き残る。善か悪かじゃなくてね。そうすることで、人間ドラマが成立するのではって思ったんです。
阿木 しかも、まだM&Aが一般に馴染(なじ)んでいない頃に作品になさった。時代を先取りした感がありましたね。
真山 フィクションは、現実よりも一歩先の想像力が大事なんです。作家が創り出す未来図に読者を連れていくことができれば、今を見据えることができます。ハゲタカシリーズ第3弾の『レッドゾーン』では、中国の国営投資ファンドが日本の大手自動車メーカーを買収する話なんです。連載を始めたとき、日本人投資家のほとんどが、あり得ないって笑っていましたが、その後似たようなことが現実に起こっています。

政治・社会

くらし・健康

国際

スポーツ・芸能

対談

  • 艶もたけなわ

    田中麗奈 女優

    2018年5月20日号

    阿木燿子の艶もたけなわ/202   清涼飲料水のCMで初代イメージキャラクターを務め...

コラム