対談詳細

艶もたけなわ
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本谷有希子 小説家・劇作家

2016年4月10日号
 声優活動や劇団の主宰者としても知られる作家の本谷有希子さん。実に4度目の芥川賞ノミネートで、『異類婚姻譚』(講談社)を見事受賞。その作家活動の知られざる創作エピソードや演出家としてのこだわりなどを明かすとともに、微笑ましいプライベートの一面もちらり。才気溢れる本谷さんの魅力に、阿木さんは興味津々でした。

 ◇出だしの1行に、書いては捨てを繰り返し、優に60編以上書いたんです。
 ◇舞台もDVDで観させていただきましたが、笑いつつも、ちょっと不気味なテイストで。
 ◇笑いながら怖いっていうのが好き。笑っちゃうけどゾッとする、紙一重の感覚です。


阿木  芥川賞受賞、おめでとうございます。受賞作『異類婚姻譚(いるいこんいんたん)』は、どこにでもいそうな主婦の心の呟(つぶや)きから始まって、リアルな夫婦像を描きつつ、最後はファンタジーの世界に変化する不思議な物語ですね。私は1行目から入り込んでしまって。
本谷 ありがとうございます。出だしの1行をひねり出すまでには、ものすごく時間がかかりました。
阿木  本を開くといきなり、自分の顔と旦那の顔がそっくりになったことに気づく、といったふうな文章が目に入ってきて、ドキッとさせられました。だって、そういうことって、ありそうでしょう。
本谷 前回、三島由紀夫賞をいただいてから2年半空いたんですけど、なかなか書けなくて。いろんな出だしを書いては捨て、書いては捨てを繰り返し、優に60編以上書いたんです。
阿木  まさか、この1行のために、60編近くお書きになったとか?
本谷 それに近いです。紙に書いた文字に、実際には重さとかはないんですけど、やはりその一文に力が漲(みなぎ)っているかは自分でもわかるので、その1行を書いた瞬間、「あ、できた」って。
阿木  その感覚、わかります。私も詞を書くとき、最初のフレーズだったり、サビの頭がフッと浮かんだり、またはタイトルがピシッと決まったとき、できたって感じることがあるので。
本谷  阿木さんは作詞をされるときって、曲先行なんですか?
阿木  最近は曲を先にいただいて、後から詞を乗せるケースがほとんどです。その場合、曲を何十回も聴き込むんです。すると、メロディーが欲している言葉がふいに現れてくることがあって、その言葉にたどり着いたとき、正解って感じるんです。
本谷 私も"小説の声"を聞くことを大事にしていて、小説がどう書かれたがっているのか、その声を聞かなきゃいけないっていう状態のときがよくあります。
阿木  ひとつの作品を書き上げるのに、苦労すればいいってものでもなくて、試行錯誤の末にスッと出てきたほうがいいですよね。
本谷 ホント、そう思います。
阿木  難産だと、えてして理屈っぽくなっちゃう(笑)。
本谷 こねくり回し過ぎちゃうと、手の温度が移っちゃう感じですよね。「てにをは」などを何度も直していくうち劣化していって、作品が薄くなっていくような。
阿木  小説に登場する夫のキャラクターが面白くて。会社ではキチンとしていて、仕事もちゃんとこなすんでしょうけど、家では何もしたくない。そんな男性って、身近にいそうですもの(笑)。
本谷 「専業主婦が語り手のお話を書きたいっ」と思っていて、どういう主婦、どんな夫がいいのか、かなりの数の組み合わせを試してみました。さまざまな性格の旦那さんを書いては「違うな~」を繰り返し、その揚げ句に出てきたのが、家でだらしなくて怠ける、究極的にラクをしたい旦那さんです。
阿木  本谷さんはご結婚なさっていらっしゃいますよね。ご主人は、まさか小説に登場するようなタイプでは?(笑)
本谷 全然違います。うちの夫(御徒町凧(かいと)氏((注)))は、阿木さんと同業者で、作詞家なんです。小説とは正反対で、家でじっとしていられなくって、遊ぶのに必死です(笑)。

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