対談詳細

艶もたけなわ
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野口健 アルピニスト

2016年3月13日号

阿木燿子の艶もたけなわ 連載95

 野口健さんが登山に嫌気が差してきたとき、救ってくれたのは一台のカメラでした。普段から物事の"光と影"を見るクセがあるという野口さん。カメラでさらに多角的に物事を見るようになったそうです。エベレストや富士山の清掃、日本人兵士の遺骨収集など、マジメな内容を軽妙に、時に笑いを交えて語ってくださいました。

 ◇結局、山が好き。しがらみや思惑が交錯する日本のほうが疲れます(笑)。
 ◇音楽では、A面とB面じゃ天と地ほどの差。B面は日の目を見ることがない楽曲でした。
 ◇キレイな場所でも「そんなわけはない」と、つい"影の部分"を探し回っちゃう(笑)。


阿木 きのう(2月17日)、ヒマラヤから帰国なさったばかりだそうですね。
野口 そうなんです。首がヘルニアになってしまい、大変でした。
阿木 えっ、大丈夫ですか?
野口 帰ってからすぐ、鍼(はり)治療などをしましたから(笑)。
阿木 なんというタフネスぶり(笑)。それにしても、野口さんが以前お書きになった本を読んで一番印象に残ったのは、「A面、B面」という言葉です。外交官のお父様が、世の中はA面とB面でできている、つまり何事にも表と裏があるとおっしゃったんですよね。それもまだ、子どもだった野口さんに向かって......。
野口 親父(おやじ)はいろんな国を旅するとき、僕を必ず連れて行ったんです。たとえばエジプトだと、ピラミッドは観光地なのでA面。でも、その周辺のスラム街はB面。その辺りは治安が悪いんですよ。
阿木 お父様の教育方針だったんでしょうね。それも、確信犯(笑)。
野口 僕が小学生のとき母ちゃんが出ていっちゃって、親父は僕を相手にするしかなかった(笑)。それで僕を連れ回していたんです(笑)。
阿木 音楽の世界では、A面とB面じゃ天と地ほどの差があって、私たちのようなプロの作詞家にとって、B面は日の目を見ることがない楽曲ということになるんです。だから自分の作品がB面になると、がっかりしてしまう。でも、考えてみれば世の中、何事もA面とB面で成り立っているんですよね。
野口 親父は口癖のように言っていましたね。「あれがA面、こちらはB面。世の中には必ず両面あるんだよ」って。だからでしょうか、その言葉が僕の中に染みついてしまって、キレイな場所に行っても「そんなわけはない」と思って、つい"影の部分"を探し回っちゃう(笑)。ほら、ここが汚いって。もうビョーキですね(笑)。
阿木 いつの間にかB面ハンター(笑)。でも、お父様は外交官でいらっしゃって、公用車でA面だけ見ていてもいいわけでしょう?
野口 外交官にも2通りあって、霞が関の外務省にいて出世を目指すタイプと、ずっと海外を渡り歩くタイプがいます。親父は明らかに現場が好きな後者でしたね。
阿木 野口さんは色濃く、その血を引き継がれた。
野口 そう(笑)。で、公用車って日の丸が付いているんです。それで視察に出掛けると、出迎えは首長クラス。
阿木 当然、そうなりますよね。
野口 その結果、地域の権力者である彼らにとって都合のいいものを援助してくれって、要請されることになります。でも、それは住民が本当に望んでいるものではない可能性も高いんです。
阿木 それでは何のための援助かわからないですよね。
野口 僕が高校生のとき、中東のイエメンで車を借りて、護衛もなしで2人で市内を回ったんです。そこで親父は1カ所しかない救急病院に"お忍び視察"。救急車もない、医者も数人しかいない病院の廊下は、交通事故に遭った人や重病人でごった返していました。
阿木 想像しただけでも、すさまじい光景ですね。

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