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イチオシ
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隈研吾 建築家

2016年2月28日号

阿木燿子の艶もたけなわ 連載93

 2020年東京五輪・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場のデザインを手掛ける建築家の隈研吾さん。従来のコンクリート主体の建築とは違う石や木、土といった素材をふんだんに使って注目を集めてきた"第4世代"の旗手です。その隈さんの建築思想のルーツとは? そして、注目の新国立競技場についてじっくり伺いました。

 ◇新国立競技場は、ちゃんと予算内で収めます。それは断言しますよ(笑)。
 ◇ザハ案の予算オーバーは酷かった。日本国民をナメるなって言いたい気分でした。
 ◇日本のビッグプロジェクトの進め方自体に問題があったのではないか、という気もします。


阿木 お目にかかるのは、去年5月の新潟・長岡以来ですね。
隈 そんな前になりますか。
阿木 隈さんが設計なさった「アオーレ長岡」が完成して3周年の「感謝のつどい」でご一緒させていただきました。
隈 時がたつのは早いですね。
阿木 アオーレ長岡は、市役所機能を持った複合施設ですが、お役所的な堅苦しさがありませんね。私は仕事で何度か伺っていますが、JR長岡駅に着いて通路を抜けたら、すぐたどり着ける。隈さんが提唱されている"つなぐ建築"そのものだと感じています。
隈 確かにアオーレ長岡は"橋的性格"が強いですよね。
阿木 しかも建物の中央にある開放的な広場、「ナカドマ」にはいつもたくさんの市民が集まってますよね。宿題をやっている高校生、幼い子どもを遊ばせているお母さん、お弁当を食べている人や編み物をしている人......。まさに人と人をつなぐ建物。あれほど市民に愛されている市役所って、他にないのでは?
隈 珍しいと思いますね。
阿木 ナカドマは庭でもないし、どう表現すればいいんでしょう?
隈 普通の広場とも違うし、庭とも違う。実はあの特別な感覚には、理由が三つありまして。一つは光の状態。天井が簀(す)の子状になっていて、光が木漏れ日のように入ってくるからなんです。次に、下が土であること。ナカドマの名前の由来となった「土間」そのもの。床が軟らかくて湿り気のあるのは、日本人の感覚にフィットしているんです。
阿木 気持ちが落ち着きますよね。
隈 そしてもう一つが、椅子を動かせることが大きいんです。実は、椅子を動かせる公共空間って、少ないんです。
阿木 え、そうなんですか?
隈 なぜかというと、盗まれる恐れがあるからです。だから、公園などでも固定式のベンチがほとんどでしょう?
阿木 確かに、言われてみれば。
隈 かつて、ニューヨーク公共図書館前は、固定のベンチで誰も寄りつかない寂しい広場だったんです。当時の市長が思い切って「盗まれてもいい。動かせる椅子にしろ」と言って替えた途端、人で賑(にぎ)わうようになったんです。
阿木 椅子一つでそんなに変わるんですね。人間の心理って面白い。
隈 コロンビア大学時代に聞いた話です。それを思い出して、提案したわけなんです。
阿木 そんなささやかなことが、こんな大きな効果を生むなんて。
隈 家具一つで空間の使われ方が全く変わることがあるから、そこは気をつけましたね。
阿木 アオーレ長岡に通っていると、1年目より2年目のほうが馴染(なじ)んできて。「だんだん良くなる法華(ほつけ)の太鼓」ではありませんが、これが5年、10年たつとさらに良くなる感じがします。
隈 それが、まさに僕の目指している建築です。通常のオフィスビルに使っている素材は、時間がたつと汚れてくる、つまり「経年劣化」です。しかし、木は逆に味が出てくる。紙や土もそう。そうやって時間がたつことで味が出てくるのが、日本建築の良さだと思うんです。それを20世紀の建築は否定してきました。
阿木 隈さんが建築家になろうと思われたきっかけは、小学4年のときに代々木体育館をご覧になったことだそうですね。

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