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「電通」化する日本 巨大広告代理店はなぜ迷走したか=田中康夫

2020年7月26日号

令和風景論/5

 日本最大の広告代理店、電通に厳しい批判の目が向けられている。2015年には社員の過労自殺があり、いま給付金委託「中抜き」問題で国策企業と指弾されているのだ。電通の迷走ぶりは、日本の産業構造、労働環境の縮図だと看破する異能作家が、友人でもある山本敏博電通グループ社長に峻烈な直言を呈しつつ、問題の核心を明らかにする――。

「最優先の課題は、労働環境の改革であると認識しています」。

 2017年1月19日に(株)電通が取締役会で〝抜擢(ばってき)〟した山本敏博(やまもととしひろ)常務執行役員の、社内外に発したコメント冒頭部分です。4日後の1月23日に社長執行役員となる彼の決意表明は以下の如(ごと)く続きます。

「強い決意のもと、社員と共に改善施策を着実に遂行してまいります。経営の健全性や透明性の確保を図るガバナンス体制を強化すると同時に、当社の企業価値の源泉を見つめ直して、新しい電通の創造に向けて、全社を挙げて取り組んでまいります」。

 入社1年に満たぬ女性社員が社員寮で自害したのは2015年12月25日でした。翌2016年12月28日、勤務時間を過小に申告させ、長時間労働が常態化していた労働基準法違反の疑いで、法人の電通と彼女の当時の上司が東京地方検察庁へ書類送検されます。

 石井直(いしいただし)代表取締役社長は同日、引責辞任を会見で表明。電通は、取締役会の構成員ですらなかった〝次代のホープ〟の下で「労働環境の改革」へと踏み出します。山本社長の取締役就任は2017年3月30日、株主総会の議決後です。

 その2年後の昨年2月14日、財務担当の曽我有信(そがありのぶ)取締役は決算会見で、183億円を投じて250施策を実施したという「働き方改革」の成果を強調。「労働時間の短縮と業務品質の向上を両立出来た」と。

 午後10時~午前5時の全館消灯、持ち帰り残業の禁止、毎月1回の週休3日制、1人当たり年間100時間以上の研修。社員の心身状況を毎日パソコンで質問して把握、定型作業を自動化するロボティック・プロセス・オートメーションRPA導入。〝風紀委員〟の如く列挙し、「守りの投資」から「攻めの投資」で「成長の足掛かりを作る」と胸を張りました。

 その「電通」は今年1月1日、事業会社(株)電通を筆頭に「国内に約130社、海外に約900社の企業集団で構成」される純粋持株会社(ホールディング・カンパニー)体制へ移行。「旧電通」社長の山本氏が(株)電通グループ代表取締役社長執行役員に就任。

「いわゆる一般的な『持株会社』ではなく、世界中のdentsu全部をひとつのチームにする役割、即(すなわ)ち『チーミング・カンパニー』になることを目指し」、「多様な視点をもとに、全ての顧客の皆さんと共にビジョンを掲げ、一緒により良い社会を作っていく為の事業を成長させていくパートナーでありたい」。

 が、豈図(あにはか)らんや上場以来初の営業赤字転落を、その直後の2月12日に発表します。2019年12月期連結決算(国際会計基準)最終損益の赤字額が808億円。五輪「延期」やコロナ禍を想像だにしなかった昨年末段階での数値(ファクト)です。

 遠因は「広告業界」で当時、世界8位だった英国のイージス・グループを4090億円で買収した2013年3月26日に遡(さかのぼ)ります。名称変更したロンドンの「電通イージス・ネットワーク社」を海外本社に、「110ヶ国・地域で事業展開するグローバル・コミュニケーション・グループ」を標榜(ひょうぼう)。

 その後もM&Aを加速。僅か5年で164社を傘下に収め、145ヶ国・地域に6万6千名の従業員へと急拡大。英WPP、米オムニコム、仏ピュブリシス、米インターパブリックの「ビッグ4」に次ぐ地歩を築いた「電通」全体の売上総利益に占める国内比率は85%から43%に半減。57%の収益を海外に依拠する構造へと変容を遂げています。

 然(しか)るに豪州や中国を含むアジア太平洋地域で、よもやの苦戦。昨年9月時点で7886億円まで膨張した「のれん」の減損損失701億円分を計上。赤字転落しました。「のれん代」とは、「買収された企業の時価総額純資産」と「買収価額」の差額を意味します。

 2歳年下の山本敏博氏とは1年程前までメールを遣(や)り取りし、幾度か2人でお目に掛かっていた間柄。2013年に共通の知己(ちき)を介して邂逅(かいこう)した際、教えてくれました。1988年から4年間、僕が責任編集の会員制雑誌『田中康夫のトレンドペーパー』購読者で、1998年から11年半に亘(わた)って月曜日に出演していたTBSラジオ「BATTLE TALK RADIOアクセス」の聴取者でもあったと。

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