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ジャーナリスト・斎藤貴男 渾身のルポ 被害家族を襲う不条理 佐賀・鳥栖"いじめ"事件の奈落

2019年12月29日号

 2012年、佐賀県鳥栖市の中学校で「いじめ」と呼ぶにはあまりに凶悪な事件が発生した。エアガン乱射、100万円以上の金銭強請......。一度はその異様な犯罪性を認めた学校側は、訴訟を提起されると態度を一変。被害生徒の母親が地域で罵倒される事態まで引き起こされている。この時代のいじめの底知れぬ暗黒とは――。

「(これは、いじめではなく)犯罪だと思っている」
 記者会見で公式に断じ、「誠心誠意取り組みたい」と宣言したのは、ほかならぬ教育行政のトップだった。彼らと、舞台となった公立中学校が、訴訟を提起された途端に豹変(ひょうへん)。自らが認めてきた事実関係をことごとく否定し、過去の聞き取り調査や謝罪、発言、関係者の処分などはいずれも原告である男子生徒Kの母親(49歳)に強要された虚偽だったと主張している裁判が、さる7月末に結審した。
 判決は今月20日に言い渡される。
 佐賀県鳥栖市は人口約7万4000、物流の要衝として知られている。事件はJR九州新幹線の新鳥栖駅にほど近い市立鳥栖西中学校で、2012年10月23日に〝発覚〟した。1年生のK(当時13歳)が、4月に入学して以来の約7カ月間、同級の十数人から暴行や恐喝、脅迫を受け続けていた事実が校長らの管理職に知れ渡り、加害生徒5人とKに対して、教員らの聞き取りが行われたのである。
 いわゆる〝いじめ〟の形容では表現できない事件だとは、すでにこの時点で明白だった。たとえば――。
 Kの腹や顔や足を蹴った。窒息寸前まで首を絞めた。カッターの刃を手首や首などに押し付けた。ベランダから上半身を無理やり乗り出させた。ノコギリを顔面の前に振り下ろした。エアガンを乱射した。掃除用具のロッカーに閉じ込めた。体操着や持ち物を隠した。給食を奪った。「死ね」「金づるやけん、生殺しにせな」「お前の親や妹も殺せる」等々の暴言を吐いた。
 これらは教室内での行為だ。教室外でも徒党を組んでKの自宅に押しかけ、連れ回した。農道を自転車で先行させ、〝ウサギ狩り〟と称し追走してはエアガンの的にした。歩道橋の自転車用スロープを滑走して体当たりした。顔に殺虫剤を浴びせた。包丁を投げつけた。
 金銭を脅し取った。ゲームセンターのあるショッピングモールで遊興費や飲食代を、わかっているだけで100万円以上も払わせた。
 父親(50歳)の話である。
「小学校までのKは、成績は普通でしたが、小さい子やお年寄りに優しく、誰とでもすぐに打ち解けられる、とても明るい子でした。あまりかわいくて、私は忙しかった福岡市の会社を辞め、土日を休める勤め先に転職し、妻の実家のある鳥栖に引っ越してきたんです。
 あの年の正月は、妻とKと妹のHの家族で京都へ三社参りに行ったんです。厄年だった私は平安神宮で厄払いしてもらったのに。Kは今もPTSD(心的外傷後ストレス障害)のままだ。自殺未遂も数え切れません」
 最悪の年だった。2月に母親が脳梗塞(こうそく)で入院。Kと父親も見舞いの帰路で追突され、鞭(むち)打ち症で病院通いを余儀なくされた。
 それでも春には新中学生だ。倒れる数日前、母親は思いを日記帳に綴(つづ)った。
〈K(原文は実名、以下同)、中学に入ったら英語を勉強して話せるようになりたいとスピードラーニングを聴きながら運動。ゲームより体を動かすのが好きというから男の子らしくていいと思う〉(2月16日)
 嬉(うれ)しさと晴れがましさに溢(あふ)れた文章だ。だが入学式の後は記述が一変する。病床で左半身の麻痺(まひ)と痛みに苦しみながら、
〈Kが中学になり自転車で遊びに行くのはいいが誰と行くと言わなくなったと主人と母から聞き、Kに注意する〉(4月14日)〈主人に中学生といえKの帰宅が遅い、誰といるのか言わない どうしようか?と聞かれ、中学の男の子だから大人ぶりたい時もあるかもだし、男の子のつきあいもあるのではという〉(5月4日)〈Kが泣いている夢を見た。大丈夫、大丈夫と笑いながら泣いてる夢〉(同14日)
 ......〈Kの外出が、ひどい。担任の先生に聞いたら友達に囲まれ毎日楽しく問題ないと言われたが どこも20時すぎまで遊んで怒られないの?〉(8月22日)〈K、吐く。なんとなく最近おかしい気がする〉(9月2日)〈Kを長風呂させた。ねたとこで 見た。思ってたよりひどい。ほっしんのようなのか ニキビのようなかんじと思っていたら ちがった。太モモ、こかんまわりひどい。なんで?〉(同13日)〈Kに聞く。何もされてない。いつの間にかという。今日もピンポン。A君、玄関に足を入れてきた〉(同14日)〈Kがまたケガしてきた〉(同20日)
 両親の胸中はいかばかりだったか。ちなみに、K経由で加害生徒らに渡った現金は、母親の病気が再発した場合の用意だった。

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